第24話 ヴィクターからの贈り物


 ――そうして、リカルドの婚約パーティーの日。


 さすがに、パーティー用のドレスを着るのに宿舎の自室では無理があり。

 その日は、前日からマーヴェル家の邸宅タウンハウスに泊まらせてもらって、準備をさせてもらうことにした。



 ◇


  

「あら……、すごいわねぇ」

「……」


 ヴィクターからセシリアに贈られた本日のパーティー用のアクセサリーが届き、箱を開けた瞬間に一緒に見た、養母の第一声がそれだった。


 イエローダイヤモンドがあしらわれた、フラワーモチーフのヘッドドレス。

 そして、それと対になった同じ意匠のイヤリング。


 明らかに手の込んだ装飾を施されたそれは、ひょっとするとドレスよりも高額なのでは……? という代物で。


 ――ドレスの仕立て屋を頼んだ時。

 

 結局、仕立て屋との打ち合わせに立ち会うと言って譲らなかったヴィクターだったが、そんな彼の前でセシリアがホルターネックのデザインのドレスを選んだのは、単にデザインが気に入ったからだった。

 選んだ後、セシリアが帰宅して一人になってふと気づいたのは、ホルターネックだとネックレスと合わせにくいという事だ。


 アクセサリーを贈る、とあらかじめヴィクターから聞いていたのに、申し訳ない事をしてしまったかも……と思ったが後の祭りだった。

 しかし反面、「でもまあこれで、ヴィクター様に余計な散財をさせずに済むかも」とほっとした面もあったので、そのままにしていての今日である。


 ヴィクターに合わせて、せめてドレスの色は彼の瞳の色に似たごく薄いペールブルーにしたし、義理は果たしたとすっかり思い込んでいたセシリアだったが。


(さすがヴィクター様。ぬかりない……)


 贈られたヘッドドレスとイヤリングのベースカラーは彼の髪色と同色のイエローだ。

 どうみても、明らかにヴィクターを意識したコーディネートにしか見えない。


「素敵ねえセシリア」


 思わずきゅっとうずいた胸をセシリアが抑えていると、背後から養母がにこにこと告げてくる。

 養母――フローレンスのいう通り、確かにそれは素敵な贈り物だった。



 ◇



 婚約披露パーティーは、マーヴェル家の邸宅タウンハウスの大広間で開催される。

 リカルドの婚約者であるユフィの家にも負けず劣らずの大広間があったのだが、あくまでもホストは娶る側の夫が主となる。


 なので、ホスト側であるセシリアたちは招待客を受け入れる側で、わざわざ会場へ出向くという必要がなかった。


 パーティーの開始は夕刻から。

 屋敷内もパーティーの準備にせわしなく、そんな中でも刻々と始まりの時は迫りつつあった。


「お嬢様」


 使用人の一人がセシリアに声を掛ける。

 ヴィクターが到着したのだ。

 今日のセシリアのエスコート役であるヴィクターが到着したら、会場である大広間ではなく、セシリアの部屋に案内するように伝えてあった。


 使用人に告げられたセシリアが「ええ。ご案内して大丈夫よ」と入室を許可する言葉を告げると、かちゃりとドアが開かれる。


 セシリアは、開かれた扉に向かって振り向いている最中だったので気が付かなかった。

 ヴィクターが、着飾ったセシリアを見て、あまりの美しさに一瞬言葉を失い呆気に取られた事を。


「ヴィクター様。本日はわざわざお越しくださり、ありがとうございます」

「あ……、いいえ」


 セシリアが口を開いた事でようやくはっと我に返ったヴィクターは、いつもの調子を取り戻しながらセシリアに微笑む。


「セシリア様、とても……お美しいですね」

「ありがとうございます。ヴィクター様も素敵ですわ」


 そう言ってにっこり返すセシリアの言葉も、真実、本心からの言葉で。

 いつもの騎士服ではなくパーティー用の正装に身を包んだヴィクターは、お世辞抜きにスマートで格好良かった。

 もともと細身で柔らかい印象のある彼は、どちらかというと騎士服よりもこういった服装のほうがよく似合うのだ。


 ヴィクターがセシリアの前に進み出てその手を取りひざまずき、手の甲にキスをする姿は、まるで一幅いっぷくの絵画のようで。

 周囲の使用人たちがその情景にほう、とため息をつく中、立ち上がったヴィクターがセシリアの耳元に手を伸ばし「……よく似合ってます」と夢見心地のような顔でつぶやく。


 イヤリングとヘッドドレスのことを言っているのだということはすぐわかった。


 セシリアは、贈られたアクセサリーたちがヴィクターの位置からよく見えるよう頭をかたむけると、「あまりにも綺麗で、しばらくの間見惚みほれてしまいましたわ。ありがとうございますヴィクター様」と、贈り主に礼を言った。

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