第3話 ヴィクター現る
(わたくしの下着――、それも
洗濯したばかりのものでよかった――。
いや、そういう問題でもない。
「あの、すみません。そちら、わたくしのものでして、その……」
返していただけませんでしょうか……と、か細い声でセシリアが
「はっ……! 申し訳ありません……!」
手にしていたものが
「あ……、ありがとうございます……、あっ」
そうして、ヴィクターの差し出した
あろうことかその途中、足元にあった小石に気づかずに
下着姿の上に羽織っていた――、自らの身を隠す最後の砦。
フード付きのローブを、空中に残したまま――。
「…………」
「…………あの、セシリア様。これは、一体……どういうことですか」
慌てて後から地面に落ちてきたローブを拾い、あらわになった体を隠すように身に纏ったセシリアに、ヴィクターが動揺しながら詰め寄る。
「そ、その」
「まさか……! 暴漢に襲われた、などということ……!」
ローブの下が下着のみという
鬼気迫る表情でセシリアに迫るヴィクターに、セシリアは誤解を解かなければというただ一心で「いえ、あの、違うんです……!」と必死に言い募る。
「何が違うとおっしゃるんですか! こんな……! あられもない姿で、しかも……泣き腫らして……!?」
そう言ってヴィクターがセシリアの肩を掴み、真偽を確かめようと迫った時だ。
「……この
「ち、ちが……」
(違うんですそうじゃないんです……! お酒を飲んだのはただのやけ酒で、泣き腫らしているのは単に失恋のせいで、あられもない姿なのはわたくしの
セシリアから漂う酒臭さを
「……なんという不届者……! 許さん。この世から存在を消さなくては」
切羽詰まったセシリアが涙ぐんだのを誤解したヴィクターが、立ちのぼるような殺気をあげて腰の剣に手をやったのを見て、セシリアは慌ててそれを静止した。
「あの! ……違うんですそうではないのです……!」
とりあえず、刃傷沙汰にするようなことではないので収めてください――と。
セシリアが、剣に手をかけたヴィクターを
「……お話ししますから。すべて」
そうして、天気の良い、午後の日の暮れ始めた川べりで。
お恥ずかしい話ばかりですけれどご容赦ください――、と言って
◇
「つまりは――、お兄様のご結婚の傷心を
「はい……」
一連の説明をまとめて復唱するヴィクターに、セシリアが
一部、都合よく話を
「なるほど……。マーヴェル家のリカルド様といえば、私も面識があります。とてもご立派な方で、
あのような方でしたら、セシリア様が憧れを
――いえ。憧れというレベルではなくむしろガチ恋だったのです――とは、口には出せないセシリアなのだったが。
「その……、わたくしも。頭では理解はしておりますし、兄を祝福したいという思いはあるのです。ただ今後、これから両家の顔合わせや婚約式、結婚式で顔を合わさねばならないと思うと……」
内心で素直に祝福しきれない自分自身を情けなく思い、上手く笑えないのではないかと落ち込んでいたのです――とセシリアが儚げに笑った。
「ふむ……」
セシリアの言葉に、ヴィクターが神妙な面持ちでうなづく。
そうして、突然ヴィクターが『ぽむ』と手を打ち合わせると、名案を思いついたかのような明るい顔になって、セシリアにこう言った。
「それでは、こういうのはどうでしょう? お兄様のご結婚相手との婚約式や結婚式の際には、私にエスコートさせていただくというのは」
「………………え?」
「ひとりで参加するよりも、ふたりで参加した方が気も
それに、ご一緒させていただけるのであれば。
きっと、セシリア様が悲しい気持ちにならないよう、誠心誠意エスコートさせていただきます――と。
にっこりにこにこと笑うヴィクターに面食らったセシリアは、
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