第28話 同居人


「マーレ、マーレええええええええええ!! よ、よ、よくぞおおおおおお無事でええええええええええええ!」

「あばばばばばばばばば竜すごおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「お姉ちゃん! お姉ちゃんだあああああああああああ、わああああああああああああああああい!!」


「あははは~お父様~、お兄様、カイ~痛い、痛いです~わあああ、ふふふふ」



エルフの家族が抱きしめ合う姿を私は見ている。

うんうん、異世界でもなんでも家族というのは素晴らしい。

私には関係ない事だが。


私は浅瀬の中からその様子を見つめる。



「GRRRRR……」


「お、おおお……水竜様、この度はなんとお礼を申し上げたらいいのか、カイだけではなくまさか、姉のマーレまで……」


「竜、かっこよ……」


「ありがとうございます! 竜様!!」



エルフ家族の大声に他の住人も集まってくる。

さて、これ以上騒がれるのも面倒だ。


私は引き止める声を背後に、巣へ戻る。



「あの~! 竜様~! 私、私絶対に、また遊びに行きますから~また、色々お話を~」


「GR」


のほほんとしたエルフが叫ぶ。

ああ、まあ、出来ればそうして欲しい。

……さすがに女性と2人きりであの入江にずっといるのもきつそうだからな。



◇◇◇◇



「あ、え、へへ、お、お帰りなさい、使いサマ」


「……サキシマで構わん」


入り江に帰る。

砂浜には葉っぱをシート代わりにして魔術師の少女が座っていた。


この子は、エルフの集落には行かなかったのだ。


「……キミ、それで、本当に彼女の村に行かなくてよかったのか?」

「あ、あはは、そ、そうですね、マーレちゃんはめちゃくちゃ誘ってくれたのですが、その、家庭の事情で、エルフの集落には私、多分、寄り付けないんですよね……」

「そういうものか」


私はふかふかの水マットを彼女に差し出す。


「あ、ありがとうございます、うわ、すごい、ふかふか。家のベッドより凄いかも……、えっと、あの、サキシマ様は」

「サキシマでいい。サマ付けは勘弁してくれ」

「あ、はい。サキシマさんは、聞かないのですか? 何故、エルフの村へ行かないのか、とか、理由とか」

「聞いてほしいのか?」

「い、いえ、そういう訳では……ただ、不思議なだけです、水竜様のお使いってやっぱスケールがすごいんですね」


微妙に何か勘違いしている彼女。

私はサラサラの砂浜に寝転ぶ。

背中に感じる砂の感触が心地いい。


ざぷーん……ざぷーん……。

寄せる水音、悪くない。


「違う、どうでもいいだけだ。それに、私だって君に自分の事を聞かれても話すのが面倒だしな。お互い様だよ」


「……不思議な人ですね、貴方は。あの、使い様、1つ、ほんの少しだけ、お願いがあるのですが……」


「どうぞ」


彼女、魔術師クリムが改まって居住まいをただす。


「私をどうかこの場所に置いては下さいませんでしょうか!! 仕事はなんでもやります! 魔術も扱えます! えっと、お、お金はあまり、そのもってないんですが、そ、そそそそそっそその、もし、私の貧相なものでよければ、お使いサマにこの身体を捧げても――」


「いらん、良いぞ」


「は、はい、覚悟はできてい……へ?」


「キミの身体はいらん、いや、肉体労働はしてもらうがな。良いぞ、この場所にいても」


「……えっとお?」


目を真ん丸にしたまま、ぽけーっとクリムが固まる。


「おかしい、本で読んだのと違う、竜の使いは生娘を好んでその貞操と引き換えに願いをかなえるって話だったのに……え、もしかして私、生娘じゃないの? うそ、そんな恋人どころか、男の人の手だって握った事ないのに嘘、も、もしかしてお姉ちゃんと格闘訓練しすぎたから? 嘘、アレで私のま――」


「おい、止まれ、なんで暴走している」

「あ! すみません! えっとその、ちょっと驚きすぎてしまって……ほ、本当にいいんですか?」

「ふむ、確かに、私1人の独断では彼らに失礼か」

「へ、彼ら?」


私は入江に向かう。

寄せる波に足をつける、夕焼け色に染まる海水。

オレンジ、だいだい、少し、温かい。


「というわけだ、諸君。しばらくの間、彼女をこの場所へ留めても問題ないか?」


「「「「「キュイ!!!」」」」」


イルカ達が飛び跳ねる。

すぐにへそ天で海の上を浮かび始めた。


「う、そ……海の賢者が……あんなにたくさん……」


「だそうだ。ようこそ、魔術師、我らの入り江へ。キミの過去も事情もあまり興味はない、知りたいのは1つだけだ」


私の夏休みは続く。


「君はいったい、何が出来る? 魔術師君」


まあ、1人か2人程度なら人手があっても問題はないだろう。

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