第27話 姉の帰還《エルフコミュ》
「あ……そっか……私達、助かった、んだ……」
「そうだよ〜クリムちゃん、お家に帰れるんだよ〜……あれ〜どうやって帰りましょうか〜」
「……まあ、そうだろうな」
しばらく話をしたのち、エルフのメールの家がこの海域の近くにあるという話になった。
待てよ、この近くのエルフの集落?
まさか。
「君、もしかして君の村とはこう、浅瀬の海岸に桟橋とかで家が建っている感じか?」
「わあ〜使いサマは物知りですね〜はい、その通りです〜、モコの村という私の故郷です〜」
「……君、妹がいたりしないか? 白い肌で、素直な子、確か……名前は……カイ」
「へっ? え? え? なんで、その名前を? カイ、カイは私の妹です!」
「うお」
のほほんとした話し方が一変。
目を見開いて私に迫るメール。
くっ、褐色の豊満な身体が眩しい。
「か、カイに、カイに何かあったのですか!?」
「お、落ち着け、彼女は無事だ。海を漂っていた所を村に届けて……ああ、そうか、君がいなくなった姉、か?」
「も、もしかして、カイは、私を探してっ」
「ああ、君と同じで漂流していた」
「あ……」
絶望。
先ほどまでの穏やかな顔はもうない。
長い耳はへちゃんとしおれ、手は震え――。
「だが、心配する必要はない、問題なくご家族の元へ届けた。族長という元気な父親の元にな」
「へ……? お、お父様? じゃ、じゃあ、カイは、カイは無事……?」
「君と同じくたくさん水分を摂らせた状態で送り届けた。問題はないだろう」
「わ、あああああ、ありがとうございますううううう! 使いサマ~~~~」
「ぐえ!?」
タックル!!
エルフのメールが抱き着いてくる。
なんとか押し倒されないないように耐えたが……!
まずい、私は今海パン一丁!
うら若き女性との肌の触れ合い面積が大きすぎる!
うわ、めっちゃしっとりしてて心地良――。
「キュ~?」
「はっ! ち、違う、イルカさん、これは違うぞ! メールさん、落ち着け!」
「うわあああああ、良かったあああああ、カイに、カイに何もなくてよかったですううううううう」
「あわわわわわ、め、め、め、メールちゃん! 駄目だよ! 女の子がそんな簡単に男の人に抱き着いたら……うん? え、男、ですよね?」
怪訝な顔のイルカ達。
泣きながらさらに私を抱きしめるエルフ。
止めようとしつつも、私の性別を疑う魔術師。
「男性だ! 確か……クリムさん! エルフの彼女を引き離すのを手伝ってくれ! 力、が強い!!」
「あ、う……お、男の人にいきなり名前を呼ばれた…………旅に出て、よかったかも……」
「話聞いてるか!?」
静かな私の入り江がなぜ……。
◇◇◇◇
波の音、安らかに。
白い砂の滞留した海、透明で空の色をそのまま映す。
海鳥達がのんきに漂うに飛ぶ空は高く、白い雲はのんびり流れる。
その村はずっと、ずっと海と共にあった。
海岸に建てられた海上の村、モコ。
エルフ同盟とは距離を置く、島エルフ達の集落だ。
幼い彼女は今日も、村に一番はずれの岬、桟橋の腰かけ海を見る。
ここが一番遠くの海を見渡せる事を知っていたから。
「カイ……また海を見てるのかい?」
「……お兄ちゃん、お姉ちゃん、いつ帰ってくるのかな……」
「そう、だね。でも、大丈夫だよ、カイ。上姉さまは一族の中でも最も海に愛された方だ。きっと、帰ってくるさ」
「……水竜様」
ぎゅっと目をつむり、小さな手を組み合わせる少女、カイ。
帰らぬ姉の無事を海に祈る。
兄エルフはそんな少女をゆっくり抱きしめる。
ああ、海よ。
こんなにも穏やかな貴女だ、どうか、この少女の小さな願いをかなえてくれないだろうか。
「……いや、貴女は美しく、しかし残酷、か……」
兄エルフは知っている。
海の美しさ、そしてその残酷さを。
海はただ、そこにあるだけ。
すべてを平等に受け入れ、すべてを平等に奪っていくもの。
「だが、それでも、海よ、海よ、我らの家族を返したまえ……この身を捧げて、姉が帰ってくるのなら、幼い妹に、姉を返してくれないか」
「……駄目だよう、お兄ちゃん、いなくなったらやだあ……」
「……そうだね、カイ」
「水竜様、竜さまが、また……」
「駄目だよ、カイ。竜は海と同様、自由で、気まぐれだ。君を返してくれたのも、かの存在の気まぐれにすぎない。竜に何かを求めてはならない、竜を己のものとしてはならない、なぜなら竜は神の使いであり、神の力そのものであるからね」
「でも、でもね、あの竜様はとても、優しくて」
「カイ、その優しさも竜の気まぐれだ。錯覚なんだよ……」
兄が妹に言い聞かせる。
それは世界の仕組みの話。
竜とは強大な生命であると同時にシステムである。
平等に命を奪い、平等に命を救う。
定命の者や同盟のエルフといった時代を進めようとするものは竜を倒し、そのシステムを簒奪を狙っている。
しかし、島エルフは違う。
ただ、そのシステムを受け入れるだけ。
「奇跡は2度と起こらない。竜を頼ってはいけない、彼らは誰にも束縛されない自由な生き物だ、錯覚してはいけない」
「お~い、お~い、カ~イ、マーレ~、お姉ちゃんですよ~」
「……これも、錯覚かな……おねいちゃんの、声がする」
「ああ、海よ……どうして、こんな残酷な仕打ちを……海よ」
「おおおお〜い! おーい! ……あれ~? 聞こえてないのでしょうか~? お~い!」
あ、これ、錯覚じゃないな。
妹と兄が海の方を見ると――
「おお~い、帰ってきました~帰ってきましたよ~、カイ~、マーレ~!」
「え、お、おねいちゃん?」
「う、上姉さま。ご、ご無事でっ! え?」
兄達は固まる。
最愛の姉の帰還、しかし、彼女を運ぶその雄姿。
「GRRRRRRRRR」
「へ?」
兄は視た。
姉を背中に乗せて悠然と遠浅、透明なサンゴの海を滑るように泳ぐその姿を。
竜。世界のシステムをつかさどる大いなる生命が――。
「あ、竜様だ」
また、なんか、助けてくれた。
―――――――――――――――
あとがき
読んで頂きありがとうございます。
夏の間は毎日更新目指します。
現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。
引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。
また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。
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