第26話 クリムとメール
「びごごごご! ぶごぼぼぼぼ」
「もももももももも、むむむむむむむ」
「おおう」
一心不乱に水の塊に頭を突っ込む少女達。
「ぼごごごごごごごごっご!!」
「もももももももももも、むむむむむむむ」
なんか、その、見てて良い光景なのかわからなくなってきたな。
うら若い美少女達が、水に顔面突っ込んでいる姿……
「お、おいっしいいいいいいいいいい!! いき、いき、生き返るっ!! わああああ、ほんとに死ぬかと思ったあああああ、ぼごぼごぼごごごごご」
「わああああああ、こんなに美味しいお水~初めて飲みました~とても柔らかいです~、ももももももももももももも」
彼女達の細い喉がとくり、とくりと上下に動く。
む、目を逸らしておいたほうがよさそうだ。
「あああああああああ、ありがと、ありがとうございますううううううう、ほんと、死ぬかと思ってぼごおおおおおお」
金髪の魔術師衣装の彼女が口から水を吐く。
ああ、もう、飲みながら喋るから。
「ああ、いい、良い、今はとにかく水を飲め。ゆっくりでいい」
「か、神……!? あ、ありがとうございます、3日……3日ぶりの、真水うううううううううう」
ごぼっ。
また少女が水の塊に頭を突っ込む。
私は日陰に移動し、そのまま寝転がる。
少し、眠たい。
彼女達が落ち着いたら、事情を聴いて、それで……
◇◇◇◇
「ほんっとうに、ありがとうございました!! あ、あなた様は、い、命、命の恩人ですうううう」
「お水〜とても、美味しかったです〜、あんなに美味しいお水は生まれて初めて飲みました〜!」
充分に水分補給した彼女達。
だいぶ肌艶も戻って血色の良い顔に戻っている。
白い砂浜に正座して頭を下げる。
この世界でも、正座あるのか……。
彼女達の細い足、白い砂浜に少し埋まる。
「……砂浜は熱いだろう、これの上に座りなさい」
私のお手製、水ベッドを彼女達に差し出す。
「え、これ、何……?」
「クッション? いえ、マット、でしようか〜? 見た事ない布……帆布とも違うような〜」
恐る恐る彼女達は、それの上に座って……。
「わあ、ぽよぽよだ……」
「すご〜い、ひんやりしてて、ふかふかでスベスベ……ありがとうございます〜」
どうやら気に入ってくれたらしい。
よしよし、やはり中々出来がいいな、私のベッド。
さて、彼女達になぜ遭難していたのかと事情を聞く。
なんと、彼女達は海賊船に捕まっていた者同士らしい。
金髪の彼女、名前はクリム。
彼女が、捕まっていた理由は。
「え、ええっと、その、いわゆる家庭の事情で少し実家を抜け出しまして。どこか遠い所に行きたいと酒場で管巻いてたら、格安で船を出してくれるという方に話しかけられまして……あれよあれよといううちに、まあ……」
世間知らずのお嬢様の家出、か。
そのまま騙され、海賊船に乗せられて奴隷候補として捕まっていた、と。
銀髪のエルフ。名前はメール
彼女とはと言うとーー。
「私は〜私の村の近くでずっと違法な漁をしてる船があったので〜やめてくださ〜いとお願いしに行ったんです〜気付いたら捕まえられちゃってました〜」
ぽわぽわしているエルフさんは哀れ、悪い人間に普通に捕まった、と。
ううむ。
物凄くなんか、心配な2人だ。
「でも、良かったねええ、メールちゃん! ほんと、勢いとノリで海賊船を沈めた後、ほんと、死ぬかと……」
「そうだねえ〜クリムちゃん。ちょっとやりすぎちゃったね〜」
手を取り合い抱き合う2人の少女。
そう、信じられない事だが、なんとこの2人、自分を捕まえた海賊船から自力で脱出しているのだ。
「その、ちなみに君たちはどうやってその船を沈めた? あまりそのような事が出来るとは思えないのだが……」
「むっふっふ、私、こう見えても魔術師ですから! それも帝国の宮廷魔術師の一派、"吟遊語り"の末席です!」
「帝国の宮廷魔術師……そういえば、ルートもそんな事を言っていたような……」
「へっ? るーと? も、も、も、もしかして、ルートさんの、お知り合い……??」
「あ、ああ、と言っても遭難していた彼女の船を水都ルトまで連れて……ああ、ごほん、水竜が連れて行ったというだけの関係だがね」
「お、おお……もしかしてその船って、マリアローズ号? ふ、ふふん、ルートさんほどの凄腕には劣りますが、私、こう見えてけっこー強いんです。海賊船なんて、チョチョイのチョイでしたよ!」
「クリムちゃんは〜すっごく強かったです〜勢い余ってあんなに大きな海賊船を燃やしちゃうほどに〜」
「うっ……か、火力の調整がまだ苦手で……」
「なるほど、脱出……というよりは完全に海賊を倒した訳だ。そして、手加減を誤って、この海で遭難というわけか……」
「うう、はい、その通りです……面目ない、ごめんね、メールちゃん。危ない事に巻き込んで……」
「私は〜クリムちゃんがいなかったら多分他の国に売られたりしてたから〜、それにクリムちゃんみたいな素敵なお友達が出来たので何も問題ありませんよ〜」
「お、お友達……!? え、へへ、うへへへへへ、そっか、そおかあ……」
美少女同士が互いにデレあっている姿は悪くない。
だが、今はそれどころじゃないだろう。
「その、それで……君達はこれからどうするんだ?」
「「へ?」」
へ? じゃないが。
―――――――――――――――
あとがき
読んで頂きありがとうございます。
夏の間は毎日更新目指します。
現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。
引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。
また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。
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