第24話 遭難日和《拠点住人コミュ》

 ◇◇◇◇


 人間モード!!

 からのウンディーネちゃんを利用した登場演出!


 決まった……! 完全になんか竜の使いに見えているはずだ。


 私の望みはシンプル、リゾート島くらしを誰にも邪魔されたくないだけ。

 必要以上の人間との干渉は不要。


 さて、この辺を上手くコミュニケーションしておかねばな。

 意思疎通できそうな人間は、船の人員を除けば、先ほど私への攻撃をやめさせたおじさんという所か。


「ごほん、定命の者よ。聞け、水竜はこう言っている、全ては、我の気まぐれである、と」


「き、まぐれ……?」


 よし、あのおじさんが返事をした。

 お前が私のコミュニケーションの相手だ。



「そう、水竜は人に与しない、ただ、彼らの有様が気に入っただけ。情熱と挑戦と愚かさをもって海に挑戦した彼らのな」


「……そ、れは、あくまで国家としての帝国ではなく、冒険者と魔術師の探求を、肯定、すると?」


「そういう事だ、だが、しかし、水竜は貴殿らに対価を要求する、彼らをこの港まで連れてきた対価を。竜はタダ働きなどしない」



 もう二度と無賃違法残業などしてたまるかよ。

 それにしても、良い言葉選びだったな、我ながら。



「対価、それはやはり、人間の――」


「酒と塩と砂糖、保存のきく食糧も樽に詰めてくれ、このマリアローズ号に積んであるものと、この港にあるものの中から、そうだな、人間1人が3か月は持つくらいの」


「は?」


 え? なんか、今なんかこわい事言おうとしてなかったか?

 人間? 怖……このおじさん。


「そ、それは、どういう……」


「む、お、多すぎたか?」


 しまった、多くを望みすぎたか?

 どうしよう、でもドラゴンの使いが一度言った交渉を少なくするのはダサいしな。


「い、い、い、いえ!! と、とんでもありません! す、すぐに用意させます!!!」


 おじさんが忙しく回りに声を掛け始める。


 良かった、食料や嗜好品も手に入りそうだ、やったぜ。



「モーセ、ルート」


 最後にこの2人に挨拶をしておこう。

 船に降りると、そこには、私に向かって片膝をつく彼らの姿が。

 え? なに?


「使い殿……本当に、本当に、なんとお礼を申し上げたらいいか。ありがとう、貴方と水竜殿への恩は必ず、必ず返します」


「使いクン、御身と水竜に多大なる感謝を。君達の伝説は、子々孫々にまで語り継がれるだろう。この私、禁書庫の長、ルートに名に懸けて」


「いや、あまり語り継がれると困るのだが」


「ンフフフ、わかっているとも、君があまり、人間を好いてない事も。大丈夫、悪いようにはしないさ」


「使い殿! 水竜殿に敬礼だ!! 野郎ども!!」


 ……気のいい奴らだ。

 私は気づけば、少し笑っていた、なぜだろう。


「つ、使い殿! 今、この街中からかき集めた物資です! こ、これで」


 おじさんが息を切らして戻ってきた。

 いつの間にか港には大樽が何個も詰まっている。

 仕事のできるおじさんじゃないか。


 水鱗生成で樽を包み、ウンディーネの体内に保管してっと。


「お、おお……あれは、水の魔術か?」

「い、いや、魔術じゃないぞ……あれは」

「権能? いや、あの竜、まさか、古竜なのか?」

「使いと呼ばれる人間の従者を従える、伝説の竜……本当にいたんだ」



 ざわめく港。

 これ以上騒ぎを広めるべきではない。

 イルカ達も待たせていることだし。帰ろう。


「行くんだね、使い殿、その、また会えるかな」


「……モーセ、君が水竜の領域を荒らさない限り、いつかそういう事もあるかもしれないな」


「そう、か。凄いな、本当に世界は凄い、君達のようなおとぎ話がまだ世界のどこかにはいるんだろうな」


「さあな、それは私には関係ない事だ」


「……使いクン、また会おう、ううん、また、会いに行ってもいいかい?


 ルートの問いかけ。

 私は、それには答えない。


「……ああ、そうだね。分かっていたとも。ありがとう、短い時間だったが、まるで幼い頃に夢みた伝説の中に参加できた気持ちだった。……後の事は任せておくれ。帝国が、いらぬ関心でキミ達に迷惑をかけないように、全力を尽くすさ」


「ありがとう、ルート」


 良い奴らだ。


 そうだな、もし、人間と交流を持つのならこんな奴らみたいな、良い奴らとだけ関わっていたい。


 まあ、それも難しい事か。


 私はそのまま、船のへりに立ち。


「狩猟船、マリアローズ、そしてその勇敢な船乗りと、冒険者、魔術師よ。貴公らの冒険と航海に、神の祝福があらん事を」


「あ」

「使いクン!」


 海に落ちる。

 ああ、やはりここは良い。

 浮遊感と冷たい海に抱かれ、竜の姿へ。


 一気に海面へ上がり、港の外へ。


「水竜殿!! ありがとう! 本当に、ありがとう!!」

「水竜クン!!! また、きっと、きっと、キミに会いに行く! 迷惑な掛けない形で!! 竜と、竜と友達になってみたかったんだ! ワタシは、ずっと!」


 モーセとルートの声。

 友達か。


「GROOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 ……帰る前に1つ、サービスだ。

 たくさん物資ももらえたしな。


 マリアローズにあった帝国の紋章を、水鱗生成で再現して。



「あ、ああ……見ろ! 竜の上!!」

「水が、浮いてる……え、あの形って」

「おお……神の奇跡、祝福じゃ……」

「帝国の紋章……」


「水竜殿……」

「美しい……」


 水によるアート、前の世界で似たような催しがあったな。

 む、これほかにも色々応用できるかも。


 まあ、とにかく、帰るか。

 良い運動になったし、砂糖と塩、酒に嗜好品まで手に入ったしな!!



「GROOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 今回の遠征は成功という事で!

 さらだば! 帝国の民よ!

 もう二度と会う事もあるまい!!


 私はそのまま、海に深く、あるべき場所へと戻っていった。




 ◇◇◇◇


 ~大海~


「キュイ!」

「きゅいきゅい!」

「キュイ!」


 はい、水竜です。

 こんな感じでさわやかかつ荘厳な感じで人間達との交流を終えた私だった。

 後はイルカ達とのんびり泳ぎながらあの入江に帰るだけ、のはずだった。


 だったのだ。


 ここは大海、どまんなか。

 帝国の港も、入江も、エルフの島も遠い場所、そんな場所で。



「うわあああああああああああああああん!! 死ぬ、死んじゃうんだあああああああ、このまま、干からびて死んじゃうんだあああああああ」


「だ、だめだよう、泣いたら余計に水分亡くなっちゃうからあ……」



 ぷかぷか受かぶ船の残骸。

 2人の遭難者を乗せて。



「キュイキュイ!


 イルカ達が嬉しそうにその周囲を泳ぐ。


 また見つけたよ! みたいな顔で。


 嘘だろ……。



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