第22話 海の旅《種族・人間コミュ》

 海流がどんどん暖かくなってくる。


「キュイ! キュイ!」

「きゅいきゅい」

「きゅい!」

「キュイキュイ!」

「ちゅぷ」


 身体が軽い。


 波を裂き海流を超え、泳ぎ続ける。

 イルカ達が楽しそうに船や私と併走する。

 ウンディーネもたまに海面に顔を出し、イルカと共に歌い出す。


 そして。


「ウワハハハハハハハハハハハ!!! さあ、すっげえええええええええええスピードおおおおおおおおお! これが、これがキミ達。本来海に生きる者達の見る光景!! 空が海が、はははは! こんなにも美しいなんて!! 水竜君! 君、すごいねええええええええ!」


「失礼ですし危ないですって! でも、これは、本当に凄い……! はは、ギルドの皆、びっくりするぞ」


「ギルドの皆だけで済めばいいけどねええええええええええええ!! あああ。風気持ちいいいいいいいいいいいいい」


 ルートとモーセもかなりテンションが上がっている。

 ふふふふ、そうだろう、そうだろう。

 この海を駆る爽快感に比べられるものはない。


 そして、船乗り達も――


「す、げえ、俺、今、ほんとに竜みたいな速度で海を……」

「がきの頃、憧れてたんだ、魚や鮫みたいな速さで泳げたらどれだけ心地いいかって」

「……なんでだろ、俺、少し泣けてきた」

「船乗り、なってよかったな」


 ある男が呟く。

 その呟きは、リズムを携えて。


『The wind is howlin', the sails are high……《風は吠え、帆は高く上がり……》』


「「「「「「「お!! やるか!!」」」」」」


 船乗り達が甲板に集まる。

 互いに肩を組み。


「学士殿、ハンター殿! あんたらも!」

「おや?」

「あ、はい!」


 ヒトが肩を組み、身体を揺らす。

 ひときわ大きな波を私と船が砕く。

 白い波が青い空に飛び散って。


『Beneath the raging stormy sky

 With courage bold and hearts so free

 We sail across the endless sea』


 始まったのは、歌。

 船歌、未開の地に挑戦する彼らが自らを鼓舞する為に作り出したもの。

 海を進む音、風を切る音に交じり、彼らの歌が水平線に手を伸ばす。


『Sail away, brave hearts, sail away

 The ocean's call, we shall obey

 Through storm and fire, night and day

 We'll never falter, come what may』


 肩を組み、互いに笑顔で、喉を震わせる。

 希望を願いを夢をその生き物はリズムと声に乗せる事が出来る。


「キュイ!」

「キュイキュイ!」

「きゅいきゅいきゅい!」

「きゅきゅきゅいきゅいろっくんろーる」

「ちゅぷ!」


「おい見ろよ! 海の賢者殿も歌ってる!」

「精霊もだ!」

「こんな事した船乗り俺達だけだぜ!」

「負けんじゃねえ! 海の賢者に帝国の船乗りの美声をお披露目してやろう!」



 その生き物の歌声は言語を、国境を、人種をよく超える。

 きっとそうやって生きてきたのだ。

 隣人と肩を組み、言葉と歌を贈り物に。


 どんな世界、どんな時代でも。その生き物は歌うのだ。


 ――人間の歌は時に、こうして種族をも超える。



「「「「「「せーの!!!!!」」」」」



『The waves may rise, the sky may fall

 But we stand tall, despite it all

 With every tide, we chase the sun

 For freedom's fight has just begun』



『Sail away, brave hearts, sail away

 The ocean's call, we shall obey

 Through storm and fire, night and day

 We'll never falter, come what may』


 楽しそうだ。


 ……こんなカラオケなら私も行ってみたかったな。

 船乗りの歌、か。


 確か、私の世界にも有名なものが。



『So raise the flag and drink the rum

 For distant shores, here we come

 With Brave and songs, we'll claim our prize

 Beneath the skies』



「GR……YO……HO……♪」



「!! ね、ねえ、も、モーセ君、聞いた? 今、いまいまいま水竜君が!」

「き、聞きました、……竜が……」

「おい、なんだ、今の吼え方……」

「よーほー……?」

「ヨーホー……いいな、悪くない」

「YO-HO! YO-HO-!!」

「いいんじゃねえか!? 竜の船歌だ!! 神様の時代も含めて竜と歌を歌いながら船旅なんて俺達だけだぜ!」


「GRRRRR――YO-HO-!」


「ははははは!! 野郎ども!! 水竜殿の美声に負けんな!! 帝国船乗りの歌を、竜に! そして、全能神ユピテルへ!!」


「「「「「「YOーHOー!!!!!!」」」」」」


『Sail away, brave hearts, sail away YO-HO-!!! The ocean's call, we shall obeyThrough storm and fire,  YO-HO!! night and day YO-HO!!!!We'll never falter, come what may YOーHO-!!!!!』



 海に響くは船の歌。

 挑戦者達の陽気な歌。


「キュイ!」

「キューィ!」

「きゅーほーきゅーほー」

「ちゅぷーちゅーぷー」


 それに続くは、海の賢者に水の精霊の歌声。


 そして。



「GRRRRRRRRRRR!! YO-HOー、YOーHO-!」


 竜の歌声。

 海を船乗り達と共に歌いながら渡る。


 ああ、たまにはこういうのも悪くないのかもしれない。


 海流がさらに暖かく。


 そして、見えた。


 巨大な港町、白亜の街並みが。

 ぽつんと、しかし、それはどんどん近くなって――。



「ンフフ!! 野郎どもォオォオ!! 街だ! 島だ! 本国だ! 帝国よ! 水都ルトよ!!!!! 我々は帰ってきたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」




「「「「「「「「「「YOOOOOOOOOOOOOHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」」」」」」」



 船乗り達の歓声が、響いた。



 あとがき


 読んで頂きありがとうございます。

 夏の間は毎日更新目指します。


 現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。


 引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。


 また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。

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