第21話 水竜伝説《周辺勢力反応回》


「ですから! 何度も言っているように、冒険者ギルドとしては速やかな救援活動に移るべきだと! そう言っているのです!!」


 ドン!!

 円卓を揺らす握りこぶし。

 ”水都ルト”

 海に面した大都市、背後を山で囲われ、正面には人類にとって未だ未知の世界”大海”を構えるその地は昔から多くの客人を迎えてきた海の玄関口と呼ばれてきた。


 冒険者ギルドを率いる長が大声で叫ぶ。

 妙齢の女性、顔に傷がついたハンター上がりのギルド長だ。



「我がギルドの優秀なS級ハンター、”モーセ”があの船に乗っているのだ! 都市を維持する為に、優秀なハンターがどれだけ重要な存在か、貴族のあなた達がわかっていないはずがないでしょう!」


「う~む……それはわかる、わかるぞ、シュロ殿、しかしですなあ」

「ふむ……あの救援の伝書鷹から伝えられた船の場所がまずいのです」

「然り、よりによってあの”エーベ海”とは……」

「……アイランドともかなり近いですな……」



 円卓に座るこの街の有力者、貴族達の反応は芳しくない。


 今彼らが話している内容はシンプル。


 宮廷魔術師の3大勢力の一派、”禁書庫”の長、そして冒険者ギルド最強戦力S級ハンター。


 この2名を乗せた狩猟船が航行不能になり、救援依頼が届いた。


 即時の救援を求める冒険者ギルドに対してこの街の首脳陣の反応は芳しくなかった。


「帝都の重要人物に加え、辺境防衛の要であるS級ハンターを乗せた船です! なぜ、このように為政者たるあなた方が救援をお渋りになられるかが理解できない!」


「……簡単は話だ、場所が悪すぎるのだ」


「場所……? エーベ海の東、今なら船を出せば3日で付く距離です! 例え海流で流されていようと船団を組めば――」


「それだ、今回の救援は少なくとも4隻以上の船が必要だろう。あの海域はエルフ連合との約定により船団規模での人類の航行は禁止となっておるのだ」


「さよう、あの海域周辺にはエルフ連合でも特殊な立ち位置にあるアイランドの集落がある、いわゆる、島エルフと呼ばれる民族の海だ……下手に手出しは出来ない」


「ただでさえ、海賊があの周辺を荒らしている。エルフの連中は今のところは海賊と帝国を別の存在だと認知しているが、あの高慢な種族だ。何かのきっかけで、いっしょくたにまとめられては敵わん」


「な、だ、だとしたら、エルフ連合に渡りをつけてから……あ。エルフ……」


「「「「「「そう、エルフ……はあ……」」」」」」


 そこまで言ってギルド長が何か気づいたように口を開き、貴族達がため息をつく。


 この理由もシンプルだった。



「……奴ら長命の者の感覚では書簡だろうが、使者だろうが、返事は早くて……1年……いや、10年……もうわからんが、時間が、かかるのだ」


「……100年前に交渉した領土割譲提案もまだ返事が返ってきてないものもあるくらいです」


「……そうそう、エルフとの交渉、爺が初めて孫が終わらせる、なんてことわざもあるくらいには、奴らの時間間隔は、終わっているのだ」


「ああ……」


 ギルド長は完全に、勢いを失った。


 どう考えてもそれでは救援は間に合わない。


 未だ人類の手が及んでいない大海洋上で船が航行不能になったこの状況。

 救援なしでは、恐らく、3日も持たない……。


「……なら、エルフに黙って、救援を」


「それだけは駄目だ」


「あいつら、全ての事は亀並みに遅い癖に、ブチ切れる時だけは一瞬だ。おまけにプライドも高いからな。船団規模で奴らの海域に踏み込めば1日しないうちに、国境線を攻めてくる可能性もあるぞ」


「……じゃ、じゃあ、彼らは……モーセは……」


「「「「「……」」」」」


 ルト側からしても、これは痛恨の極みだ。


 彼らは別に無能な為政者でもない。


 狩猟船に乗っている人材が帝国にとってどれくらい重要かも理解している。

 理解してなお、リスクが高すぎる。

 国と個人、それを秤にかけたときにどちらが重いか。


 これはすでにそういう次元の話になっていた。



「……宮廷魔術師殿の実家からも救援要請は来ている、だが、それを陛下が止めておられる状況だ」


「皇帝陛下が止めた判断を、どうして我らが覆せようか……」


「ギルド長殿、我らも、辛いのだ……」


「あ、ああ……」


 力なくうなだれるギルド長。

 手はない。

 この世界ではよくある事だ。


 冒険者達がその情熱と挑戦の行く末に滅ぶ。


 きっといつの時代、どこの世界でもこれは起こり得る。

 このように積まれてきた幾万もの屍の上に、人類は進歩を重ねてきた。


 これまでも、そしてこれからも。



「全能神ユピテルの元に、彼らの魂が昇る事を祈るより他あるまい……」

「……S級冒険者モーセには爵位の贈呈も考えている、せめて名誉の死として扱わせてもらいたい」




「……奇跡でも起きない限り、いや、奇跡でも足りん、全能神、ユピテルの寵愛でもない限り、彼らは――」







 バンッ!!



「か、会議中、失礼致します!! ご、ご報告、ご報告ですっ!!」



 勢いよく開けられる会議場の扉。

 ここは貴族と街の意思決定の場、本来ならこのような振る舞いは無礼討ちとなってもおかしくない。


 だが――。



「どうした、落ち着け、冷静に要点を話せ」

「この会議の扉を開けたのだ、重要な事柄なのだろう?」


 この街、ひいてはこの国に無能な貴族はいなかった。

 無能を貴族として飼う余力がないとも言えるが……。


 扉を開けた守衛が、息を整えて――




「ご、ご、ご帰還!! ご帰還されました!!! 狩猟船”マリアローズ”が、た、たたたた、たった今!! ルトの港に、入港したとの報告が!!」



「「「「「「「はい???」」」」」」



 その場にいた全員が一回固まる。


「待て……それは、どういう事だ? の、乗組員は?」


「ぜ、全員無事を確認しています! 船の損傷は激しいですが、メインマスト、サブマストの帆が燃えている以外は……軽微とのことです」


「いや、それは……おかしい。帆がない、だと? ど、どうやって……」


 貴族の1人の問いかけに守衛が、一度、喉を鳴らして。




「り、り、竜です……」



「「「「「「「「「「うん?」」」」」」」



「竜、海を泳ぐ竜によって!!! 曳航された状態で、帰還したとの事でしゅ!!!!!!!!」




「「「「「「「「「なんて???????」」」」」」」



 水都ルトの歴史に、新たな伝説が追加された瞬間だった。



―――――――――――――――


 あとがき


 読んで頂きありがとうございます。

 夏の間は毎日更新目指します。


 現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。


 引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。


 また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。


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