第19話 水竜の助け その1《能力回》

「そ、それはどういう意味だろうか……?」

「水竜殿が? ふむ……」


 モーセとルートの問い。


 決めたぞ、私は。


「船が航行可能になれば大体どれくらいで君達は帰港出来る?」


「……大体3日だねえ」


「なるほど……普通に走る分だと食糧が足りないな……」


「キュイ! キュイ!」


「む?」


 イルカ達が何かを伝えようとしている?

 ……待てよ。



「学士殿、もし仮に、この船があのイルカ達と同じくらいの速度で走れたらどうなる?」

「ええ? 海の賢者達と? ふむ、伝承通りならねえ……大海の端から端を3日で渡る彼らだ。帝国領までなら2、3時間でついてしまうだろうねえ」

「イルカ達、そうらしいが、本当か?」


「「「「「「「キュイ!!」」」」」」


 私の問いにイルカ達が頷く。

 よし来た、とばかりなノリの良さだ。


「ええ……君、イルカと話せるのかい?」

「学士殿、水竜の使いです、そのくらいできるにきまってますよ」

「モーセ君、君、なんか目が輝き始めたねえ」

「当たり前ですよ! ジャーニー冒険記であった記述と同じです! 古竜は時に、使いと呼ばれる従者を人々の前に遣わせる……! 子供の頃に夢想した状況が目の前に……!」


「まあ、それもそうか……それで、使いクン? さっきの話は一体――」


「水鱗生成」


「「え?」」


 方法は既に考えた。


 今の私ならこの船を助ける事は、容易い。


 頭上にまず、水鱗を生成する。

 ベッドとパラソル作りの経験がもう役に立つとはな。


「……え? ま、じゅつ?」

「儀仗も、魔術書も、詠唱もなしで??」

「待て、あの水、どこから出した? 海か?」


 船が一気に騒めく。

 船乗り達が水鱗を指さして口々に騒ぎ始めていた。


「船の走行に関する損壊箇所はあの帆だけか?」


「あ、ああ、舵や船体、竜骨部分には大きなダメージはない、が……あ、あの、使いクン? あの上にある水の塊は、君が――」


「了解、ならば……こうだ」


 水鱗を薄く延ばす、燃え崩れている帆を覆うように。

 水の帆を張る。


 水鱗生成の強度を高める、鱗布まで用意する時間はない。水だけで風を受ける事の可能な帆を――!


「「「「「「「はい???」」」」」」」


「さらに――ウンディーネ!! この船を浮かせろ!」


「「「「「「「ウンディーネ……??」」」」」」」


「ちゅぷ」


 船底に忍ばせていたウンディーネに呼びかける。

 彼女に船を持ち上げてもらい、波の影響を最小限に。


 ぐ、ぐぐぐぐ、船が、動き始めた。


 ルートが、ぱくぱくと口をあいたりとじたり。


「あ、あ、ああ……使いクン、君、これ、一体どうやって……」


「が、学士殿、これは……一体……」


「わ、わからない……! ま、魔術じゃあない! 魔術じゃないのに、彼は水を操って、いや、水を生み出している! そ、それに!!」



 だだだだっとルートが船の端に、そこから船底をのぞき込み――



「ははは……! ははっ! ははははははは!! う、ウンディーネだ! 伝説の精霊! ウンディーネ! 精霊を使役している! はははは!! なんで? 何が起きてるんだいこれはあああああああああああ! うわはははあはははは!! すっげええええええええええええ!! う、う、う、ウンディーネの身体の中に飛び込んだらどうなるんだろう!?」


「ああ、学士殿がまたおかしくなった! 皆、押さえつけろ!!」


 膝をついて万歳しながら叫ぶルートをモーセが止める。


 愉快な奴らだ。



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