第18話 冒険者達 《冒険者コミュ》
今、彼はなんと言った?
「たはは、なんて言ってもここを切り抜けないとどうしようもないんですが……まあ、なんとかなります、ね! 学士殿!」
「フゥン……ンァ当たり前だろう? モーセクゥン! だがねえ、君ねえ、その為にもやはり、今は失礼を働いたお詫びにこのワタシを海に捧げた方がいいんじゃないかい? 水竜の使いクン? 君の主はお怒りじゃあないのかい?」
なんだ、こいつらは?
何故、助けを求めない?
何故、この状況で私に縋らない。
わ、私の知っている人間とは、このような状況ではいつも慄いて、喚いて騒いで。
「な……ぜだ?」
「「え?」」
気づけば私は口に出してその疑問を問うていた。
「なぜ、この状況で、私に、水竜やイルカに助けを求めない? このままでは君達は死ぬかもしれないんだぞ」
「「??」」
なぜ?
不思議そうに顔を見合わせる?
なぜ、私をそんな不思議な顔で見る?
私が、何かを間違えているのか?
私の知っている人間は皆、そんな。顔――。
「たはは! 使い殿、それはもう理由なんて決まってますよ」
「ンフフ! ああ、そうだとも、使いクン! それはもう簡単なロジックさ」
輝く顔。
私の知らない人間の顔で、2人が笑って。
「「これは」」「僕の」「私の」
「「冒険だから」」
「……」
……。
「苦労も恐怖も困難も、全部それは僕達が抱え、僕達で解決するものです」
「その通り。ワタシはねえ! そのために、高い金を払って船を雇い、冒険者を雇ったのさ……だが、正直、今回の冒険は既に大成功と言えよう!」
ルートと名乗った眼鏡の美女が自分で乱した服をいそいそ直しつつ――。
「ほおら! 船乗り諸君! 何をめそめそしてるんだい! 君達は今! おとぎ話! 伝説の中に参加しているんだよ! 古竜の使いに出会えるなんて、人生を7回繰り返しても遭えるかどうかわからない福音さ! その幸運を前に、生きるか死ぬかなんて些末な事だろう?」
「なんか魔術師殿が言ってるぞ」
「お貴族様の言う事は意味わかんねえ」
「……でも、俺、実は海の賢者の話、好きだったんだよな」
「あ、お前も? 俺もさ、ガキの頃、よくその話読んでたよ。古竜の話も。船乗りを助ける、嵐と雷霆の神の眷属の話……」
「……ま、なんだかんだ、楽しかったな……赤竜と戦って、海賊船ともやり合って……冒険船冥利に尽きるわな」
……知らない。
こんな人間を、私は知らない。
私の知る人間なら、今頃喚き散らして誰かに責任を、私に責任をかぶせて――。
「まあ、ですから! 使い殿が気にする事はありません、あ、でも出来れば、水竜様に、貴公とは戦いたくないとお伝えください。伝説の古竜と戦うのは冒険者の誉れですが……今はきっと勝てませんから」
「ン~、すでに本国に救援は呼んでいる、一週間生き残れば、まあ、帰還の目もあるだろうしねえ。んふふふふ、生死を賭けてこそ、冒険というものさ!」
彼らは、違うのかもしれない。
私の知る人間と。
「1つ、聞かせてくれ」
「どうしました?」
「誰かに助けを求められて、それを厭う者は、薄情者だと思うか?」
――アンタ年長者だろ? 助けてやれよ
――崎島さん、仕事は出来るけど冷たいよな、後輩が助けてくれって言ってんのに、あの人ニコリともしないんだぜ
――頼ってやってんのに、感じ悪いよな
「人が人を助けるのは当たり前だと思うか?」
――この前は助けてくれたのに、急に自分で考えろって言われて
――え~それってパワハラじゃん
――てか出来る人がすれば良くね?
人間人間人間。
つくづく、人間、無能無能無能。
私に関わるな、私に触れるな、私に――
「プッ」
「ンフッ」
「「あははははははははははははは!!」」
「……何故だ? 何かおかしな事を言ったか?_」
「い、いえ、失礼しました、使い殿! あはは、でもなんですか、その話、どこの世界の話だろうって。――そんな訳がない。誰かに助けを求めるよりも、まずは自分でなんとかするのが当たり前でしょ」
「ンフフ。まあ、貴族として言わせてもらうと、だね。それを決めるのは助ける側さ。人を助けるか否か、それをすべきかどうかは常に助ける側、つまりはリスクを背負う側が決める事。決して、助けられる側が決める事でも口に出す事でもないねえ」
彼と彼女はひとしきり笑った後、答えを出す。
冒険者は自助を。
貴族は助ける者の心構えを。
……ああ、なんだ、こんな奴らもいるのか、こんな奴らがいたのか。
「感謝する、我が神よ。ゼウスよ」
「え、使い殿?」
「ゼウス……? どこかで聞いた名前だねえ……」
答えは得た。
そうか、私が決めていいのか。
ならば、こうしよう。
「砂糖、塩、酒を寄越せ。この船に残る嗜好品を。全て捧げよ」
「……使い殿?」
「……フゥン?」
「「「「「……」」」」」
剣呑な雰囲気になる船内。
ああ、良いな。
彼らは生きる事にどこまでも真摯で、まっすぐ、で心地よい。
「使いクン、それはつまりワタシ達に死ねと――」
「――さすれば約束する」
「……なんだって?」
「水竜の名のもとに。貴公ら冒険者、貴族、船乗り。勇敢なる人間たる諸君を必ず故郷に届けると」
「え? 使い殿?」
「――水竜はいま、こう思っている」
私は決めた。
この二度目の人生は、私の気に入ったものだけで彩るのだ。
「貴公らの事が好きになってきた、と」
故に、始めよう。
水属性魔法の応用を。
―――――――――――――――
あとがき
読んで頂きありがとうございます。
夏の間は毎日更新目指します。
現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。
引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。
また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。
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