第17話 冒険者モーセ《冒険者コミュ》
土下座の彼女の話をまとめると。
彼女達は帝国という国の人間で、冒険者という集団らしい。
この海域の生態調査と頻発している船の沈没原因を探るため航海に出たとか。
どうやらこの海で幾度かの争いに巻き込まれ、その結果、この船は航行不能になったらしい。
そんなところに我々が現れた。
一部の臆病な船員が過剰に反応してしまい、大変申し訳ない。
かくなるうえは――。
「この私の身体でッ――海の賢者、並びに水竜殿へのお詫びを――」
「「待て待て待て待て」」
私ともう1人の冒険者と言われた青年の言葉が被る。
目の前の眼鏡の美人、悪人ではないが、基本人の話を聞かないタイプの人間だ。
この青年も苦労しているのだろう、ふと彼と目が合う。
――ほんと、すみません。
――いえいねご苦労されているようで。
なんとなく彼とは通じ合える気がした。
お人よしで色々な仕事を押し付けられるタイプのような気がする。
「……なるほど。事情は理解しました。それで、貴方達はこれからどうするおつもりだったんですか?」
「……伝書鷹を放って本国への救援を待つつもりでした。ただ、この辺りは海流が不安定で……実はかなり舵も傷んでいるので正直、お手上げ状態でして」
青年の言葉通りなら、そのような状況の中、竜が現れた訳だ。
なるほど。大海の中、航行不能の状態で巨大な水棲生物が現れる、海洋恐怖症ならそれだけで発狂してもおかしくはない、な。
さて、どうしたものか。
正直、彼らを助ける理由がいまいち私にはないような……。
「キュイ!!」
「キュイキュイ!」
……船の下のイルカ達から抗議の声が上がる。
人助けの好きなイルカだ。
だが、私も彼らに助けられた身、彼らの在り方や生き方に反する真似は……人道にもとるか。
だが、それにしても……社会と関わりたくない。
人間の社会とはクソだ。
なぜならばあの社会は労働という個人の自由と権利を侵しつくす蛮行によって成り立っている。
出来る人間ばかりが、出来ない人間のしりぬぐいをさせられる。
出来ない人間ばかりを保護し、甘やかし、サポートし、そのしわ寄せを全て出来る人間に放り投げ、はいおしまい。
出来る人間は他者を助けるのが当たり前とばかりに負担と責任がのしかかり、いざそれを拒否すれば冷血漢か無能呼ばわり。
そんなものにもう二度と近寄りたくない。
……私は竜だ。
行きたい所に行き、住みたい場所に住み、好きなように生きるのだ。
そこに他人は要らない、私の邪魔をする克己心も誇りもないあの生き物は必要ない。
こいつらも同じだ。
一度助ければ次もそうなる。できる者に助けてもらうのが当たり前。
――崎島、お前さ、ベテランなんだからもっと周りを助けてやれよ
――新人が病休になったから、引き継ぎ頼むわ、出来るだろ
……糞喰らえ。無能共が。お前達の能力不足を私に負わせるな、恥知らずのカスどもめ。
「でも、僕達は諦めません。きっとなんとか、自分達でなんとかやって見せます!」
「……なに?」
「状況は絶望的ですが、でも良い事もありました!」
「良い事?」
「はい、良い事です」
私の言葉に、青年が、モーセと呼ばれた冒険者が笑う。
彼が船の縁に立ち、手を広げる。
「おとぎ話で読んでいた彼らに出会えた! 海の賢者、大海を旅する心優しき種族! 子供の頃に読んでいたおとぎ話そのまんま! これは冒険に出ないとあり得なかった出会いです! 僕達の挑戦と冒険の結果がこれです! 後悔はない」
「……漂流していてもか?」
「だからこそ、貴方にも会えました……! あの、水竜の使い殿、一つ。お願いがあるのですが」
そら来た、助けを求めるのだ。
きっと、これで次もまた次も――。
「今度、俺達がまたこの海域に来たらまた遊びに来てください! 今はその、残念ながら備蓄の酒や塩、砂糖しかありませんが、この船は交易船も兼ねています! 宴でもして色々お話を聞かせてください!」
「……え?」
―――――――――――――――
あとがき
読んで頂きありがとうございます。
夏の間は毎日更新目指します。
現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。
引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。
また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。
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