第10話 人間モード《能力研究回》


 さて、めでたくスローライフの第一歩。キャンプ地、拠点の土地を確保した訳だ。


 ふふふ、私だけの場所、私だけの土地、私だけの秘密基地!!


 白い砂浜に青い海、ドーム状の岸壁、ふわふわ浮いているイルカ達、秘密の入り江! マイリゾート! 


 ふふ、なんだ、このワクワク感は……。


 土地代を払った訳でも登記簿を手に入れた訳でもないのに、この高揚感!!

 自分の拠点の候補地を手に入れただけなのに。

 ああ、マ〇ンク〇フトとかの初プレイの瞬間を思い出す。


 家……簡単なものでいいから家が欲しい。

 出来ればあの浅瀬の辺りに水上コテージみたいなものを。

 砂浜には、そうだな、かの飛行艇乗りのように、パラソルにリクライニングチェア、そしてミニテーブル。

 テーブルの上にはスパークリングワインや、サラミなどの乾き物を置いて……。

 ラジオのようなものもあれば欲しい。


 ふふ、夢が広がりんぐ……。



「キュイキュイ!」


 イルカ達はどうやらここでしばらく休憩していくらしい。

 お互い口から水を噴き合ったりして遊んでいる。

 むしろ、彼らにとってもここが家なのか?


 ……だとしたらあまり手を入れない方がいいのかな?


「キュイキュイ!」

「GR?」

「きゅい! キュイキュイ!」


 イルカ達が何やら首を振っている。

 そして一斉にぷーっと水を空中に向けて噴く。


 規則的に吹かれた水はなぜか空中に固定されている。

 それは、家の形をしていた。


 これは……つまり……。


「GRRR]


 家を作ってもいいという事か?


「キュイッ!」


 え、賢……優し……。

 住人である彼らがそういうならお言葉に甘えよう。

 彼らにも何か還元できる設備とか作りたいな……。

 ……生け簀とか遊び場とか作ったら喜んでくれるだろうか?


「GRR」


 そこまで考えて、私は自分の姿を確認する。

 透明な海面に移る私は、いまや完全にどこに出しても恥ずかしくない水竜ボディ。


 四足歩行かつ流線形の身体。

 長い尻尾は美しいミルク色。

 

 身体の関節部はウロコ、胴体や胸にはより厚い鱗、甲殻が備わる。

 鋭い爪や水かきのてのひらは海中生活に最高に適している。

 

 あ、自分の顔をこうしてみると、角までついている、カッコ良!!


「GRRR」


 だが、この身体……驚くほど拠点作りに適していないな……。

 よし、やってみるか。


 我が神に頂いた特典チート【竜化】!

 その2つ目の能力!!


「……GRRRRRRR!!!《人間モード》!!」


 なんちゃって。

 さて、これ、どうやったら人間に戻れるんだ?

 そんな事を考えた瞬間だった。


 ドクン。


「GR?」


 心臓が大きく響いた。

 え? なに?

 ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクン!!

 うおおおおお! 怖っ、なんだこれ、何が起きているんだこれ!?


「GRァ……」


 鱗が薄く、爪が短く、しっぽが縮んで。


「キュイ!?」

「キュイキュイ!?」

「きゅいきゅいきゅいきゅい!!?? オイオイオイ、シヌノカオマエ」

「きゅい???」


 イルカ達が心配げに鳴き始める。

 くっ、私の身体が、変わっていく。

 痛みはない、だがこれ、身体が光って、う、おおおおおお!?


「GROOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 何も、見えない……。


 ◇◇◇◇


 ざざーん、ざざーん。


 寄せては打ち返す波の音。

 頬に感じる砂浜の感触。じゃりじゃりざらざら。

 砂浜の白さは、サンゴの死骸が砕けたものらしい。

 滅びてなお、美しいままに在る。


「……素晴らしいな……うん?」


 私は気付くと砂浜にうつ伏せに倒れていた。

 いや、そこまでは良い。

 おそらく人化が成功したのだろう。

 視界に移る手足は完全に人間のソレ……。


「やけに、細いな、それに、白い……あれ、こんなに肌綺麗だったっけ?」


 あれ……?

 私の疲れたおじさん手脚は?

 シミや日焼けに傷跡まみれの42年モノの肌はどこへ?


 うん? なんか頭がサラサラする。

 首のうなじから背中にかけてさらさらと。


「え……!?」


 髪の毛だ……長いっ!!

 手で引っ張れる!

 待て、よく見ると足もお腹もなんか、白くて、細いぞ!

 うわ、お臍が縦に長い!!

 ぷにぷにし始めた中年ボディの輝きではない!


 あ、よかった、息子さんはきちんとあるべき場所にいた。

 やあ、こんにちは、異世界でも多分活躍の場はないだろうがこれからもよろしくな。


「いや違う!! 自分の急所と会話している場合か!」


 なんだ、この薄水色の髪は!?

 私は海面で自分の姿を確認し、て……え?



「……だ、誰、だ?」


 そこに移っているのは、とんでもない美少女……いや、美少年だった。

 小さな顔にくりくりした水色の瞳。

 通った鼻、白い肌。

 薄い少年の白い身体、あばらがうっすら浮き出て、お腹もすらりとへこんでいる。

 うわ、若干くびれすらあるぞ。

 だが、きちんと肩幅や腕の血管などの男の特徴も残っている。


「……誰の趣味だ?」


《お、サキシマ、人間の身体になったか、うちの娘に感謝しろよ。創作意欲が湧くとか言って張り切ってお前の竜形態と人形態の姿創ってたからな、じゃ、それだけ》


「は? お、おい! 我が神!? 何!? そういう感じで話しかけてくるのか!?」


 もう返事はない。

 自由か。あいつ。

 ……まあ、冷静に考えれば竜に転生したんだ、今更元の姿が失われた程度、驚く事でもないか……。


 さて、それでは、まずは……。


「……さすがに、全裸はまずいよな……」


 衣食住足りてなんとやら。

 服、どうにかしないとな……。


―――――――――――――――


 あとがき


 読んで頂きありがとうございます。

 夏の間は毎日更新目指します。


 拠点づくりにクラフトが始まります。

 楽しいよね、拠点で設備作ったり、クラフトしたり。


 現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。


 引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。


 また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。

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