第9話 秘密の入り江へ《海体験&拠点作り回》


「キュイ!!」


 エルフの少女を村へと送り届けた直後だった。

 イルカの群れが速度を上げて、泳ぎ始める。

 なんだろうと着いていく。


「キュイキュイ!」


 ザパン! ザパン!


 海面を飛び跳ねながら高速で泳ぎ続けるイルカ達。

 私も必死についていく。

 前世の世界にあった高速船以上の速度。


 ザパッ! 海面を波が揺らすたびに私の身体が跳ねる。


「キュイ!」


 おお! 波に合わせてピンクイルカが跳んだ!

 なるほど波をジャンプ台のように利用しているのか。

 くるくる回転しながら海中へ戻る彼。


 楽しそうだ、よし、私も……。


 ざぱん、ざぱん、今だ!!


「GRRRRROOOO!!」


 バシャ!!

 砕けた波が一瞬視界を覆った、次の瞬間――。


 ウワハハハ!! 最高!!!!


 鱗が感じる風を切るこの感触。

 全身に広がる浮遊感。

 水平線が見回せる視座!


 私は空を跳んでいる、そんな錯覚を覚えて。


 バシャン!!!


 着水!! 冷たい海水、最高!!


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 海中世界を自由に泳ぐのもいいが、海面すれすれを全速力で泳ぎ飛び跳ねるのも最高だ!

 波に乗る感触、空中に飛び出す爽快。

 なるほど、サーフィンにはまる人間の気持ちが理解できる。


 これは病みつきになるな!


「キュイッ!!」

「キュイキュイ!!

「キュイキュイキュイッ!」


 イルカ達も最高だと言っていそうだ!

 私の周りを飛び跳ねながら、なんかすごい回転したりポーズを決めて跳んだり、トリックを決め始めたぞ。


 ああ、竜! 最高!!

 溺れないし、泳げるし、吠えるし!!


 だが、それはそれとしてやはり、さっきの村を見て思ったが、拠点が欲しいな。

 ふむ、竜の身体を収める場所は大変そうだから、必要なのは人間形態が収まるサイズの拠点だな。


 さて、どうしたものか……。

 彼らと別れるのも、なんだか寂しいしな。


「……キュイ」

「キュイキュイ!」

「きゅいきゅい、アソコナライイダロJK」


 む、イルカ達が列を為してまた泳ぎ始める。

 私はそのまま着いて行って。


「キュイ!」


「GRRR……」


 島が見えてきた。

 美しい島だ。

 白い岸壁に、青々した緑、だが、でかいな。

 エルフ達の島よりもでかい。


 それに島に近づくほど海流が強くなっているような。


「キュイ!」


 イルカ達が止まる。

 ここは……?


 岸壁だ……。

 真っ白な岸壁、海もまだ深い。

 群れが止まるような場所ではないような――。


「キュイ!!」

「キュイっ! キュイ!!」

「きゅいきゅいきゅいきゅい、ヒラケミチヨトジヨモン」

「キュイキュイ!」


 イルカ達が……急に立ち上がった!?

 いや、尾びれで身体を持ち上げたのか。

 イルカショーで見た事あるな……。


 キュイキュイ鳴きながら身体を揺らす。

 まるで、踊っているような……。


「キュイ!」


 ピンクイルカがひときわ大きな声で鳴く、その瞬間だった。


 まるで霧が晴れたかのごとし。

 白い岸壁にはいつのまにか、入り口が現れていた。


「キュイ!」


 ええ……いや、キュイじゃないが……。

 こ、この、イルカ達、何者だ?

 ああ、皆優雅に泳ぎながら入り口へ進んでいく。


 ……まあ、今更か。異世界転生だ、なんでもありだ。

 竜がいてエルフがいて魔法があるのなら、妙なイルカもいていいはず。

 鮫もSHARKと鳴くしな。


 私は、イルカ達についていく。


 入口を進む、岸壁の中は洞窟のようになっている。

 海面をゆっくり泳いで進んで、あ、明かりだ。



「RRR……」


 おい……嘘だろ……。

 なんだ、ここは。


 ざざーん、ざざーん。

 白い砂浜に、打ち寄せる波の音が心地いい。

 透明な、海。

 泳いでいると自分がまるで浮いているような気にもなる。

 珊瑚が広がり、魚達も多い。


 そこは、入江のビーチだった。


 扇状に広がった浜、その先にはまた岸壁。

 ここだけ、まるで隠れているような場所。


「GR……」


 私は今、猛烈に感動している。

 なぜか。

 この隠れビーチ、透明な海に、白い岸壁。


 ……〇の豚の奴じゃないか!!

 飛べない豚ではなく、飛べる豚の!!

 ポルコ・〇ッソのプライベートビーチまんまだ!!

 赤い飛行艇が欲しい!!



「キュイ!」

「キュイキュイ!!」

「きゅい!」

「きゅいきゅいきゅいきゅい、ココニスメヨ、イイバショダロ」


「キュイ!!」


 こつん、ピンクイルカが私の背を押す。

 行け、という事だろうか。


 だが、ここでお別れ……


「きゅいきゅい」

「きゅ~い」


 あ、違うわ、なんかぷかぷか浮いて彼らは彼らでリラックスし始めている。

 ここは彼らにとっても寝床なのかもしれない。

 じゃあ、お言葉に甘えて……。


 私はゆっくり砂浜に上がる。

 柔らかい砂、足がもう着いた。


 おお、考えたらこの体では初めての地面か?

 どのような形なのだろう。


「GR!?」


 うお、なかなか重い……!

 浮力がない分、そりゃそうだ、これは地上での活動も訓練したほうがいいな。

 どしどし、砂浜を踏みしめ、私は地上へ。


 上を見ると、青い空を呑気に海鳥が飛んでいる。

 海を見ると、イルカ達がぷかぷか腹を上にして昼寝をしている。


 なんだ、ここ、天国か?


 よし、決めたぞ。

 ここだ。

 私のリゾートスローライフの拠点はここ!


 そう! 私、水竜、サキシマウミヒトは!


「GROOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 ここをキャンプ地とする!!

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