第8話 海上の村《エルフ集落コミュ》


「――ふえ?」


 ヨットの中、少女の目の前に水が現れる。

 それはバレーボールサイズの球体の容。

 ふよふよ浮かぶ真水の塊だ。


「GR」


 出来た……マジか。

 これが、水属性魔法……。


《ああ、なんだなかなか上手いじゃねえか。ま、そんな感じのイメージだ。お前が水で出来ると思った事はたいてい出来る。ま、時間が出来たら色々練習してみりゃいい。スキルツリーを使えば露骨に出来る事も増えるだろ》


 我が神の声はもう聞こえない。

 助かった、本当に。


 さて、と。


「こ、れ……飲んで、いいの?」


「GRRR」


「あ、あ、ありがとう、ございます! 竜さん!」


 エルフの少女がぺこりと頭を下げる。

 恐る恐る、その真水の塊に手を差し入れて、掬う。


 つぷ……。とく、とく、とくり。

 少女がゆっくり、水を口に運ぶ。

 最初は、ゆっくりと。

 とくり、少女の小さな喉が上下に動く。



「……美味しい」


 ざぱっ。

 少女が次は勢いよく水の塊に手を差し込む。

 掬って、また飲む。

 ごく、ごく、ごくっ……!

 今度はためらいなく水を飲み始める。


「……ぷはっ! 美味しい、この水……!! あ、ありがとう、ありがとうござい、ます、竜さん~!」



 うんうん、よかったよかった。

 きちんと飲み水を創れたようだ。


「キュイキュイ!」


 イルカ達も嬉しそうだ。

 あ、そうこうしてるうちに島が見えてきたぞ。


 おお、白い砂浜、豊かな緑。

 THE南の島。


 うん? よく見ると、あれは浜辺に建物があるのか?

 桟橋や家……おお、海上村という奴か。


 む、イルカ達の動きが止まった。

 ああ、あまり近づくと海が浅くなりすぎて座礁するのか。

 私の身体、一応後ろ脚もついているから、陸にも対応できるのだろうか?


「あ……! パパの船!」


 エルフの少女がぴょんっと跳ねる。

 確かに良く見れば、なんか物凄い勢いでこっちに小舟が――。



「うおおおおおおおおおおおおおお!! カイイイイイイイイイイイイイイイウウウ!!」


「GR」


 おお、なんかすげえイケメンのエルフ。

 指輪物語とかで出てきそうな長身の金髪エルフが、エンジン船のような勢いで――。


「カイイイイイイイイイイイイイイイウウウウウウ!! よかった、無事で、よく、よく戻って来た! 偉いぞ! いや、勝手に出ていったのはパパ的にはマジ叱りなんだが、とにかく無事で――」


「パパー! あのねー! イルカさん達と、おっきな竜さんが助けてくれたのー! 竜さんはねー! お水も飲ませてくれてね! すっごく美味しかったの!」


「そうか! 海の友が! ああ!! 海神よ、あなたの慈悲に感謝を――……うん、竜?」


「GR?」


 あ、呼んだ?


 俺は、エルフ少女のヨットの後ろからにゅっと首を伸ばして。


「GRRRR」

「え」


 首を傾げる。

 あれ、エルフのお父さん、固まっているような……。


「え、ええええええええええええええええええ!!?? り、竜!!?? 嘘ォおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 あ、海に落ちた。

 私はすいっと海中に潜り、落ちた彼を頭で掬いあげる。


「ああああああああああああああ!!?? ……ぶはっ!? え、今、海に落ちた俺を、拾ってくれた、のか?」


 彼を小舟に戻し、なんどか頷く。

 意思疎通出来ればいいが……。


「GRRR」


「パパ! この竜さんね、とっても優しいの! お礼、ゆって! 今、パパを海から拾ってくれたんだよ!」


「……そ、そうか……り、竜が? あ、ありがとう、ございます?」


「GRRR」


 頭を下げる。いえいえ、どういたしまして。


「わっ、今、会釈したのか? 1000年生きてきたが……おま、いや、貴方のような竜は初めて見た……」


「GRR」


 どうも、私もエルフを見るのは初めてだ。

 さて、保護者もいることだし。


 イルカ達、もういいだろう。


「キュイ!」


 イルカ達が少女のヨットをぐいっと父親エルフの小舟に押す。


「わっ、と。イルカさん?」


「キュイ!」


 イルカ達はここまでらしい。

 ヒレを振ってキュイキュイ鳴き出す。


「GRR」


 さて、私もこの辺までで良いだろう。


「……行っちゃうの? 竜さんも」


「GRRRR」


 喉を鳴らして頷く。

 もう勝手に海へ出るなよ。

 美しい場所だが、厳しい場所でもある。

 海は2つの顔を持つのだから。


「……竜殿」


 父親エルフが少女エルフのヨットに飛び乗る。

 すると、急に跪いた。


「その堂々たる姿、理知的な瞳、何より海の賢者達と共に在る。……貴方はきっと大いなる竜の末裔なのでしょう。我が娘の命をお救い下さった……海の民がマーレ氏族の族長として、感謝を」


「RR」


 族長?

 ほう、お偉いさんか。

 見れば、周りにどんどん小舟が増えてきている。

 なるほど、行方不明になっていた少女エルフは一族の姫君だった訳だ。


「古より続く海の民の習わしにより、海より与えれしものはまた海に還すのが習わし。いずれこの子が元服の時を迎えた時は、盟約に従う事をここに誓います」


「RR?」


 なんかよくわからんが、とりあえず頷いておくか。

 よし、そろそろ帰ろう。


 ざわざわしている他のエルフ達にも挨拶しておくか。


「GRRRRRRRRRRRRRRR」


「おお……見たか? 竜が頭を下げたぞ」

「バカ! 俺達もお辞儀をするのだ、ポッター!!」

「なんと礼儀正しい……古き竜だ、礼を知り、意思を交わす、海の護り神様……」

「あたしゃ2000年生きてきて初めて見たよ、なんて綺麗な瞳だい……」

「理性を持つ竜、ほんとにいたんだ」

「まさか……大竜では?」


「キュイ!」


 イルカさん達もバシャバシャとはしゃいでいる。

 それを見たエルフ達もまた信じられない者を見たかのように騒ぎ出した。


 海の賢者の祝福だとか、海の護り神の加護だとか、姫姉様もきっと生きているだとか。


 うんうん、異世界転生初の文明社会との接触は良い感じで終わったな。

「キュイ!」


 イルカ達が海に帰り始めた。

 よし、そろそろ私も帰ろう。


「あ、竜さん、行っちゃうの? ……お水! ありがとうございました!! また、また来てね! いつでも遊びに来てねええええええ!!

「あ、お待ちを! 竜様! 本当にありがとうございました!!

「道を開けろ! 竜様がお帰りだ!」

「なんか漁の獲物、捧げものないのか!? ああ、クソ、帝国の船のせいで不漁続きなんだよな、強欲なヒューマン共め」

「あいつら、許せないよ。海を荒らすばかりか姫姉様をさらうなんて……」

「ああ、竜様、そのお慈悲にお礼の品も用意できぬ貧しさをお許しください……」


 エルフ達の小舟がさっと引けていく。

 波を起こさないように慎重に泳ごう。


「竜様あああああ、ありがとうございましたああああああああ」


 声のでかいエルフ達だ。

 私は背泳ぎしながら彼らに手を振る。


「うお!? 手を振り返された!? やっぱり言葉を理解しているぞ!」

「バカ! アンタ! 竜様に失礼だよ! 珍しい動物みたいな反応してんじゃないよ!!」


 む、それにしても海に浮かぶコテージか……。

 あんな感じの家が欲しいな。


 あれならイルカ達も遊びに来れるだろうし。

 ……欲しいな。自分だけのリゾート。


 そんな事を考えてイルカ達に追いつこうとしてると。


「……キュイ!」


 イルカ達が泳ぐ速度を一気に上昇した。


 



 ―――――――――――――――

 あとがき


 読んで頂きありがとうございます。

 夏の間は毎日更新目指します。

 そろそろ拠点づくり回始まります。


 現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。


 引き続き南の海でのんびりリゾートスローライフをお楽しみください。

 また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。



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