第5話 海の名所 青の洞窟《海体験》

 サンゴ礁のアーチを抜け、白い海底をかすめ、たどり着いた先は。


「キュイ!」

「GR?」


 洞窟、か?

 大きな岩と岩の隙間、サンゴが密集する場所にぽっかり空いた穴がある。

 光が届かないらしく、先は見えない。

「きゅいきゅい!」

「きゅい!」

「キュイ!」

「きゅいきゅいきゅいきゅいきゅい、ダイジョウブ」

「きゅい」


 カラフルイルカ達は、迷う事なく洞窟の中へ。

 ……ええ、どうしよう。


「キュイ!」


 ひょこっと洞窟の中からピンクイルカが戻ってくる。

 ヒレを揺らして、まるでこっちに来いと言わんばかりだ。


 ……行ってみるか。


 暗い洞窟を進む。

 水竜の身体のおかげか、暗い中でも水の流れや水の音の変化で障害物がわかる。


 そして、あ、光が――。



 青。

 只、青。


 ドーム状になっている空間。

 差し込む薄明りが青を濃く照らす。

 筒状になった洞窟につながっているらしい。

 海面を見上げると、砕けた太陽が見える。


「青い洞窟だ……」


 脳内リゾート辞典を照らし合わせる。

 日本においては沖縄本島の恩納村、真栄田岬の海中洞窟が有名だろうか。


 複雑な太陽光の反射と洞窟の作りが作用してこの青を作り出すと聞いたが……これはどの雑誌、Youtubeで見たものより、素晴らしい……


 ……自分がこの青の中に溶けていくような錯覚。


 圧倒的な濃い青がそこにある。

 下を眺めれば濃い蒼、上を見上げれば輝く青。


 完成されている……


 見れば、イルカ達もうっとりあたりを漂っている。

 壁や海底には、不思議な、薄く光る珊瑚が広がっていた。

 目を凝らす。

 光るサンゴ礁や、イソギンチャクの隙間には小さな魚達が泳いでいる。


 美しい……


 前の世界で雑誌で読んだ世界各国のダイビングスポット、そのどれよりも、美しく、神秘的な場所だった。


【海の名所”青の洞窟”を訪れました、水属性魔法のスキルポイントが追加されました。水属性魔法による結界構成のヒントを得ました】


 ああ、そういう仕組みの感じもあるのか。

 最近のオープンワールドゲーであるよな。

 いいな、色々な所を旅したくなる……


 しばらく只、水の音と溶けるような青の中を漂う。

 あ、あのカラフルな魚、ミノカサゴみたいだな。

 お、あの青くて小さいのはナンヨウハギか?


 癒される、巨大な水族館の水槽を漂っているような気分……。


「キュイ!」


 だらだら青い水の中を浮かんでいると、ピンクイルカが何かを口に咥えて持ってきた。


 うん? 銀色の流線形、きりっとしたウロコ……。


 あ、魚だ。

 なんかアジとかの青物っぽいな――。


「キュイ!!」


 魚をこちらにぽいっと放るイルカ。


「きゅいきゅい!」


 気弱そうな青色のイルカもどこから取ってきたのか。

 青物っぽい魚をこちらに差し出してくる。


「キュイ!」

「きゅい!」


 ……くれる感じか。

 ううむ、生か。正直人間の頃から生魚あまり得意じゃなかったんだよな。


「キュイ?」

「きゅい……?」


 たべないの? 首を傾げるピンクイルカ。

 嫌だった? みたいにしょんぼりする青イルカ。


 ……まさかイルカにきまずさを感じるとはな。

 ええい、一気に行くか!

 私は口を開けて、浮いている魚を丸呑みにする。


 …………え。

 なにこれ。


 うっっっっっっっま!!!!!!

 海の、海の味がする!

 まろやかな脂に骨の軽快な食感! ワタすら味変として感じるぞ!


 こんなに美味いのならそりゃイルカも魚を食べるな。


 あ〜最高だ、竜ライフ。


 泳ぐのも楽しいし、イルカは可愛いし、こんな前の世界なら高額を払ってようやく拝めるか、どうかの絶景も楽しみ放題……


 そのうち拠点も作りたいな。

 ヒトの形態にも戻れるみたいだし、海の近くに家が欲しい。


 あの神――いや、我が神ゼウス、アンタに感謝を。

 俺は、この生活をかなり気に入っているぞ。


 それに。


「……水属性魔法か。そろそろ魔法の練習もしてみたいな」


 まだまだやりたい事がたくさんある。

 楽しみだ。



 ―――――――――――――――

 あとがき


 読んで頂きありがとうございます。

 夏の間は毎日更新目指します。


 現在カドカワBOOKSコンテストの読者選考中です、よければフォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。ありがとうございます。

 引き続き南の海でののんびりリゾートスローライフをお楽しみください。

 また、スローライフもの書くの初めてなので、コメントでこんなスローライフな展開が見たいとか、こんなのは見たくないなどのご意見ご感想もお待ちしております。

 

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