第6話 漁の練習と初めての遭難者《海体験・コミュ回》

「キュイ!」

「きゅい!」

「キュイ!!!!」

「GRRRRR」


 私は今、イルカ達と一緒に全速力で泳いでいる。

 目的は目の前のアレ。


 魚群!! 青物、イワシとよく似た魚の魚群を追っている。


 右、左、上、下。

 3次元の世界である海中を彼らは縦横無尽に泳ぎ、逃げ回る。

 およそ人間では決して敵わない動き。


 だが、今の私なら――。


 ぎゅん!


 加速、サンゴ礁の海を置き去りに、さらに深い海へ。

 私は、魚群の群れに頭を一気に突っ込んで――。


「GR!?」


 ザアッ!

 一斉にばらけて逃げる魚達、狙っていたのか、素晴らしい連携だ。


 だが、連携できるのはお前達だけではない。



「キュイ!!」

「きゅいきゅい!


 イルカ達が左右から魚群を挟み込む。

 広がろうとして魚群はあえなくまた1つの塊に。


「キュイ!!」


 イルカ達が一斉に、鳴き始め。


「「「「「「キュイ!!!!」」」」」」


 大きな鳴き声が海中に響いた瞬間だった。

 彼らの口から輪っか状の泡が吐き出される。それは水の波動となって魚群に直撃。


 魚群の動きが目に見えて鈍る。

 とどめだ。

 私はがぱりと口を開いて。


 喰らえ!

 見よう見まねの水の音波!

 喉の奥の骨を小刻みに揺らす。

 む、なんだ、この感覚。

 口の中に入り込む海水を、操れるような――。


 私は海水に意識を向ける。

 震えろ、弾けろ、飛べ!


「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!」


 ブン――。

 空気が収縮、泡が膨らんで。


 ボン!!


 魚群に私の吐き出した空気の輪っかが直撃した。

 魚群は完全に動きを止めた。


 漁は成功したらしい。


 イルカ達が愉快げに鳴き声を上げながら浮いた魚をパクパクと平らげていく。

 私の分、残るだろうか。


 この巨体だ、今のところ空腹はあまり感じないが、食べておくに越した事はないだろう。


「キュイ!」


「GR」


 とかなんとか言っている間にイルカ達が魚をなんか咥えて持ってきてくれた。

 私、赤ちゃんかと思われてるのか?

 まあいい、差し出された魚をそのまま丸呑みにする。


 美味い。

 味覚が変わったのだろうか。

 苦手だった生魚もぺろりだ。

 う~ん、青魚特有の濃い脂、悪くない、濃厚な滋味だ。


 ……だが、普通にあれだな。

 料理がしたい。この魚なら焼いても煮ても揚げても美味いだろう。


「キュイキュイ!」

 

 彼らと行動を共にし、だいぶ泳いだりするのも慣れてきた。

 あれからあの、骨鮫とも会っていない。

 このまま彼らの群れの中にいるのもありだろうな。


「キュイ?」


「GRR」


 青い海をくるくる回遊するイルカ達。

 癒される……。

 竜の身体は動かせば動かすほど出来る事も増えそうだ。


 この長い尻尾、攻撃にも使えそうだな。


 ……あと試してないのは、竜化のおまけである人形態への変化と、水属性魔法か。


 なんとなく魔法についてはさっき使い方を掴め掛けたような気がするが……。



「キュイ!!」

「キュイキュイ!!」


 む?

 イルカ達が騒ぎ出した。

 またサメか?

 ふふ、今の私はもう頭突きだけじゃない。

 口から水の波動みたいな泡を噴いたりも出来るんだぞ。来るなら来い。


「キュイ!」


 あれ、違うようだ。

 イルカ達が怯えてはいない。


 海面を目指して泳いでる者がいるな。

 ついていこう。

 ヒレをなびかせ、尾でバランスを取りながら海面を目指す。


「きゅい」


 む? なんだろう、イルカ達がどこか、丁寧に泳いでいるような。

 あ、海面が近い、浮上するぞ。


 ざぱん。

 ざざーん、ざざーーん。

 こぽ、こぽ。ざああああ。

 ファフア~、ファァ~

 ―ウァァァァァァン


 波の音、海鳥の声。

 大海を見回す。

 絶海。

 海がどこまでも広がっている。


「キュイ」

「キュイ!」


 イルカ達が背びれを海面にはみ出し、水面すれすれを泳ぎ始める。

 どこに向かっている?

 またなんか名所に案内してくれるのか?


「GR?」


 あれ? 海面に何かが浮いている。

 アレは、……小舟か。

 帆が付いているからヨットだろうか。


 あれ、待てよ。

 もしかして、これ、異世界にきてからの初人類とのコミュになるのか?


 ど、どうしよう、今私、竜だしな。

 いきなり襲われたらどうしたものか。


 そんな事を考えながら可能な限り、ゆっくり近付くと……。


「うああああああああん、あああああああ。おねいちゃああああああん、どこおおおおおおおおおおおお」


 え?

 泣き声?


「GR……」


「え?」


 ゆっくり、脅かさないようにヨットをのぞき込む。


「GR」


 おお、なんと。


「……ふえ」


 ヨットには女の子が1人。

 布の、簡素な服に特徴的な髪飾り。

 銀色の髪に、白磁の肌。

 精巧な人形のような容姿……そして。


 ピコリ。


 尖った耳がピコピコ動く。


「GRRR」


 ……エルフ、か?

 幼いエルフの女の子が1人で、ヨットに?

 あ、固まっている。

 どうしよう……よく考えたら、こんな大海原で音もなく忍び寄ってきたでかい水棲生物に覗き込まれる状況。


「わ。あ…………」


 普通に怖すぎるよな。

 いかん、どうしよ――。


「……かっこいい……あなた、竜なの……?」


 おっと。度胸があるエルフ幼女か。

 やるじゃないか。

 それはそうと……君、遭難してない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る