第2話 転生したら水竜だった件

「竜か、良いな……」

「だろ? ちなみに竜のデザインは特別に芸術の神である俺の娘がすげえいい感じに作ってくれるぜ」


 良いぞ……竜。

 でかくて強いし、かっこいいし、考えたら上司いないし、会社に行かなくてもいい。

 何よりこの、人間社会に関わりたくないというコピーが気に入った。


「最高だ、竜」


「お、気に入ったか。んで、あと1つは……特典2つを受け取れる器はありそうだからな、コンボ狙えるかもしれねえぞ?」


「コンボ……? まさか、あれか? 特典(チート)の組み合わせ次第で相乗効果が望めるとか言う奴か?」


「そーそーWEB小説全盛時代の日本人リーマンは話が早くて助かるぜ。【竜化】はかなり拡張性が高い特典でよ。【神性】と組み合わせりゃあっという間に神代の古竜様の出来上がり……っとそういうのじゃなかったな、うーむ……」


 白い髪の青年が様々なカードを真剣な顔で眺め始める。

 ……本気で、考えてくれているように見える。


「……アンタ、良い神様だな」


「あ? ……けっけっけ。まあ、ちょっと色々あってな。不器用でも理不尽な生に真面目に立ち向かう人間、そんな奴くらい報われないとな。やってられねえじゃねえか」


「……ありがとう、神、いや、神様、アンタみたいな上司が欲しかったよ」


「そりゃ、どうも。お、こんなのどうだ?」


 神様が再び、私にカードを投げ渡す。

 これは……輝く水のしずくの絵柄?


「特典・水魔法・神話級。簡単に言うと水を完全に意のままに操れる能力だ。竜化の特典と組み合わせりゃ……水属性の竜の完成ってな」


「水属性の、竜……」


「お前、沖縄行きたかったんだろ? その世界の海は沖縄にだって負けないほど綺麗だ。水属性の竜なら息継ぎなしで海を泳ぎ続ける。ブルーホール、グレートバリアリーフ、ケラマブルーやらにだって負けないさ」


「最高じゃないですか……」


「けっけっけ、だろ? ……そろそろ時間だな」


「む?」


 私の目の前に浮いている2枚のカード。

【竜化】、【水属性魔法・神話級】それらが光となり、私の胸の中に吸い込まれて……。


 うおおおおお……なんだ、これ、身体が熱い。

 はは、今ならなんでもできそうだ。



「力の使い方、竜の肉体の使用感、そういうのはそのうち分かる、ああ、それとスキルツリーな。ほいっと」


 神様が種のようなものを私に差し出す。


「それ食えば、特典はどんどん進化する。進化の方法は――」


「モンスターでも倒せば経験値が入るのか?」


「こりゃ説明いらずだな。ああ、そんな感じだ。まあ、あっちの世界に行けばわかる」


「む……」



 私の身体が、光に包まれる。

 視界がどんどん白く染まっていく。


「なあ、おい、サラリーマン、お前、名前は?」


「……崎島 海人(さきしま うみひと)」


「そうか、まあ、あれだ、世界をたのしめよ、心行くまで、サキシマウミヒト」


「……ありがとう、神様。アンタの名前は?」


 もう何も見えない。

 光が私の身体を浚って。


 声だけが聞こえた。


「ゼウス、我が名はゼウス。サキシマ、お前の人生に溢れんばかりのたのしみと穏やかな時間があらん事を」



 それで、終わり。



 ◇◇◇◇



 こぽ……。

 こぽぽ……。


 心地いい。涼しさと冷たさに抱かれて眠っているような感覚だ。


 こぽぽぽぽ、こぽぽぽぽぽ。


 心地いい音、水の音――海の音だ。


 私は目を開く。


 ああ……良い。


 あか、しろ、みどり、きいろ。

 色とりどりのサンゴの寝床。


 カラフルな熱帯魚の群れが、悠々と透明な青の中を泳ぐ。

 おお、なんだ、あの大きな亀……でかすぎる。

 向こうで泳いでいるのは、イルカか? 七色のイルカが群れで泳いでいる。

 あっちの岩礁にいるのはアンモナイトか?

 すげえ。


 白い砂の海底がこんなに近い、陽の光が絹糸のように揺らいでいる。


 穏やかな光が、世界を、水の中の世界を照らす。


 こぽぽぽぽぽ、こぽぽぽぽ……。


 あお、あお、あお。


 透明な青の中に私は、いる。

 海の中、海の世界。


 本当に、来た。

 異世界、海だ。


 自分の手を見る。

 青いウロコに包まれた腕、鋭い爪。

 自分の身体を見る。

 青と白のブルーハワイのような身体にひれ、尻尾。


 そっと顔を撫でる。

 ぞり、ぞり、ウロコの感覚が気持ちいい。

 うお、すごい口とがってる、口を開いて歯を撫でる、牙じゃん!!



 ……素晴らしい。いや、これ、素晴らしい、本当に、私は――。



「GUOOOOOOOOOOOO!!!」


 竜になっている!

 それも! 恐らく水中生活に適したデザインの竜に!!

 やっほう!! なんだこれ! すごいぞ、水中なのに息が出来る!


 身体をよじるだけでとんでもない速度で水中を移動できる!!


 水が冷たく、心地いい。

 潮の流れも気持ちいい!!


 ダイビングやシュノーケリングを超える海体験。

 透き通った海中世界のなんと美しい事か。

 その世界を自由に動けるこの爽快感!!


 水竜最高じゃないか! ありがとう! ゼウスとやら!


 これは、沖縄旅行以上の素晴らしさだ!


 さあ、新しい人生……何から始めるか


 まずは……この肉体の性能チェックから始めよう。


 海水浴の時間だ! ああ、楽しみ、海で泳ぐなんて何年ぶりだ?

 

 ああ、なんか、その、ワクワクしてきたぞ。




―――――――――――――――

あとがき


海に行けない忙しい現代人の為の小説です。


夏の間は毎日更新目指します。


フォローして下の☆評価入れて頂けると非常に助かります。

その分、癒しの時間を提供する事でお返しいたします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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