第54話 嫁とデート②
「綺麗…」
せーちゃんがうっとりとした表情で見上げているのは海のトンネルと呼ばれるスポットである。
全面ガラス張りになっており、上下左右を海の魚達が優雅に泳いでいる。眩し過ぎず、暗すぎない照明に反射して、まるで陽光に照らされながら海の中を歩いているような光景が映し出される。ガラスに触れると魚達が挨拶するようにこちらに近づく。海の仲間になった気分だ。
「ねぇねぇミナくん!あそこ、大っきいのがいるよ!あ、あそこの魚凄く綺麗!わー、いっぱいいるー!」
せーちゃんは大はしゃぎだ。良かった。喜んでくれたみたいだ。俺も海遊館なんて幼い頃に来たぐらいだし、ここよりこじんまりした水族館だったし、どんな感じだったか思い出せない。でも、今は俺も楽しんでいる。もちろんせーちゃんがいるのは大きいが、それ以外にも個人としても楽しい。
「うわ、何だあれ。見たこと無いぞあんな魚」
「ね、ね、凄いよね!」
「本当に凄いな」
二人してはしゃいでいると周りのカップルたちがクスクス笑っていた。
「あのカップル可愛い〜」
「初々しいな〜」
「てか、美男美女のカップルやな」
「あんなに楽しんでもらえるなら海遊館冥利に尽きるだろ」
馬鹿にするような感じではなく、微笑ましいものを見る笑顔である。ちょっと恥ずかしくなったが、せーちゃんは気付いていないらしく嬉しそうに俺の腕にくっついてきた。満面の笑みだ。まぁ、いいか。この笑顔が見れただけでここに来たのは大成功と言えよう。羞恥心はこの際無視だ。
海のトンネルを小一時間ほど堪能した次は身近な川の生物という名前の小さめなエリアだ。ここはその名前からして川にいる生物、それも身近な生物を中心としたスポットらしい。
「お〜、何これこんなのがいるんだ!」
「何だこれ、こんなの居たのか?」
せーちゃんは興味津々といった感じでじ〜と眺めている。見たことがあるのもいれば知らないのもいる。二人とも魚の知識は少ないので見る物全て新鮮だ。
次に進むと、触れ合いが出来るコーナー。足を水に浸してドクターフィッシュの体験が出来る。他にも魚に餌やりが出来たり季節によってイベントが盛りだくさんのコーナーらしい。中にはペンギンをすぐ近くで見ることが出来るイベントもあるそうだ。
「うふ、く、くすぐったいよー」
「ムズムズするな」
二人でドクターフィッシュ初体験。足に集まってくるドクターフィッシュが中々くすぐったい。その後スタッフの方にタオルを貸してもらい足を拭き、魚の餌やりのコーナーに向かう。割と人気のコーナーらしく何人か並んでいた。数分経って俺たちの番になる。餌をひとつまみ、パラパラと餌をやると魚達が集まってくる。せーちゃんは楽しそうに餌やりしている。
触れ合いコーナーを後にして次に向かおうとし、ふと時間を確認するともうお昼時だった。9時頃に来たのを考えれば3時間ぐらいはいた計算になる。海のトンネルに小一時間居たからな。とは言ってもあっという間だった。時間が経つのが早すぎる。
「あれ、もうお昼の時間?あっという間だね。いつもより時間が早い気がする」
「分かる、俺もそう思った」
「だよね、ん〜でもミナくん、お昼ごはんどうするの?」
「ショッピングモールで食べるのはどうでしょうか?」
「なんで敬語?」
「いや〜、デートでショッピングモールのフードコートだと女の子が嫌がると聞いたものでして」
俺からしたら、何でや!フードコートなら好きな物食べられるやろ!と思うのだが、そこがモテる男とモテない男の差なのかも知れない。俺は後者だろう。そんな俺にせーちゃんは首を傾げる。
「何で?ミナくんと一緒なら何処でも嬉しいよ?」
嘘ではなく、本心で言っているのがなんとなく分かる。眷属としての効果らしい。
「ん〜、じゃあフードコートに行こうか」
「れっつごー!」
せーちゃんは元気に賛成してくれた。という訳で併設しているショッピングモールに向かう。徒歩10分。せーちゃんと話しているとあっという間だった。
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