第45話 嫁の両親と挨拶⑤

「凄い…お父さんとあそこまで戦えるなんて…」


 もちろんミナくんの事だ。身内贔屓ではなく、お父さんは指折りの実力を持つ。というより、相性の良し悪しはあるだろうが、最強と言っても過言では無い。だからお父さんがミナくんと戦うと言った時は本当に焦ったのだ。危なくなったらミナくんを助けるために戦いを中止させようと考えていた。傷つけたら親子の縁を切ろうかとも考えた。


「ミナトくん凄いね〜。従魔の力を借りたとはいえ、予想以上に善戦している」


 隣でお母さんがニコニコしながらミナくんを褒める。夫を褒められて喜ばない妻はいない。少なくとも私はめちゃくちゃ嬉しい。


「えへへ〜、でしょ〜ミナくんは凄いんだよ!」


「だね〜。ノヴァくんも久しぶりに高ぶっているみたいだし、子供みたいな表情だね。よっぽどミナトくんと戦うのが楽しいみたい」


「あ、本当だ。お父さんのあんな表情初めて見る」


 いつもの穏やかな表情ではなく、子供が楽しい事を見つけたようになんだかキラキラしている。楽しいと表情に書いてある。


「アルと遊んでいる時もあんな表情する時があるよ。主にゲームで盛り上がった時とか」


「へぇ〜。お父さんって結構子供っぽいんだ」


「可愛いでしょ?」


「お父さんが可愛いかどうかは置いておいてミナくんも似た表情だね。ミナくん子供みたいで可愛い!」


「この差よ。う〜ん、ノヴァくん結構可愛い所あるんだけどなぁ」


 お母さんとそんな雑談をしつつ、戦いを眺める。もうすぐ決着が付きそうだ。


◆◇◆

「ミナトくん、君は素晴らしい!こんなに心躍る戦いは久しぶりだ!戦いが終わってしまうのが惜しいぐらいだ!」


「俺も楽しいです。戦いってこんなに心躍るものもあるんですね」


「そうだろう!だが、時間も押してしまっている。次で決着をつけよう。全力を出す。ミナトくんも全力で来なさい」


「分かりました。全力をぶつけさせて貰います」


 そう言うと俺とノヴァさんは互いに構えた。今残っている魔力を全開にする。一瞬の静寂。次の瞬間、俺とノヴァさんは激突する。小手先無しで真正面から。なんとなくだが、それがノヴァさんへの礼儀と感謝だと感じたのだ。


「ウォオオオオオオ!!!」


「ハアアアアアアア!!!」


 気合いを入れないと吹き飛ばされそうになるのを必死で堪える。全身が痛い。この戦いが終わったらおそらく全身筋肉痛だ。だが、今は気にしない。今この戦いを全力で戦う。それだけだ。


 周囲が光に包まれて行く。魔力の余波が周囲に吹き荒れる。一体どれだけの時間をぶつかり合っただろうか。身体の感覚が無くなった。


 気が付くと俺は空を見上げていた。身体がピクリとも動かない。どうやら敗北したらしい。届かなかった悔しさと、畏怖すら感じさせる力に尊敬や羨望と、それ以上に感じる清々しさ。これが魔王か。そんな俺に手を差し伸べてくれるノヴァさん。


「立てるかい?ミナトくん」


「すみません。動きません」


「だろうね。限り魔力切れだね」


「みたいですね」


「まずは身体を回復させよう。そして、1つ目のお願いは完了かな」


「お願い?」


「さっきも言ったけどセシリーを妻にするための条件さ。君の力があればセシリーを守り、そして共に歩いていけるだろう」


「あ、ありがとうございます」


「よし、屋敷に戻ろう。回復してから残り2つの条件を話すよ」


「分かりました。…すみません手伝って頂けますか?」


「もちろんだ」


 そうしてノヴァさんに手を貸してもらいながら屋敷に帰った。

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