第43話 嫁の両親と挨拶③
「ノヴァさんと戦う、ですか?」
「そうだ。頼みたい」
これはどう捉えるべきだろう。何故戦うのかは分からない。新手の「お前に娘はやらん!」なんだろうか。それとも何か意味があるのか。俺が考え込んでいるとノヴァさんが困ったように笑う。
「突然すまないな。これには一応理由があるんだ」
「理由、ですか。どんな理由なんでしょうか」
「まず魔界は人間界に比べて弱肉強食の傾向が強い事だ。強き者が正義と言う風潮だ。だからこそ言葉だけでなく実力も必要なんだ。それにセシリーの眷属としてミナトくんはこれから大変な思いをするかも知れない。それを超えていく力があるかどうかを確かめたい。そしてもう一つ」
「私自身が君をどんな人物なのかを知りたいんだ」
ノヴァさんはこちらを真っ直ぐ見据える。冗談を言っているようには見えない。ならばそれに応えなくては。
「分かりました。まだまだ未熟者ですが、胸を借りるつもりで戦わせてもらいます」
「ありがとう。ミナトくん。ここでは少し狭いから別の場所に行こうか」
「お父さん!ミナくんを傷つけたら絶対に許さないからね!」
「それはミナトくん次第かな」
「大丈夫だよ。せーちゃん。頑張ってくる」
「ミナくん…。分かった。気を付けてね」
◆◇◆
ノヴァさんに連れて来られたのはちょっとした広場である。周囲には堅牢な壁が取り囲んでおり、頑丈さが窺える。
「では、ここで戦おうか。ミナトくん準備はいいかい?」
「はい!よろしくお願いします!」
「ミナく〜ん!頑張って〜!」
せーちゃんが応援してくれている。頑張らねば。
「それじゃあ行こうか」
瞬間、ノヴァさんから発せられる雰囲気が変わる。少しでも気を抜けば押し潰されかねない。龍種の最上位である古龍と対峙しているよりも遥かに強力な圧力を感じる。これがノヴァさんの、魔界の王としての姿なのだろう。畏怖すら感じる。だが、応えると決めた以上逃げるつもりは無い。
「(少し圧力を掛けてみたが、恐れながらも立ち向かおうとしているな。大した胆力だ。精神的な強さはある。ならば実力はどうかな)」
「…!ハァッ!」
「ほう、この一撃を防ぐのか。良い判断だ」
「フッ!」
「良いぞ。もっと君を見せてくれ!」
ノヴァさんの姿が消えたかと思えば、至近距離に接近していた。繰り出される回し蹴りを咄嗟に召喚した槍の柄で受け流し、振り向き様に刺突を繰り出すが紙一重で躱された。ノヴァさんは笑みを浮かべている。ならばこれならどうだ。
「『氷槍』」
ノヴァさんの周囲に氷の槍を展開し同時に発射する。千を超える槍をノヴァさんは軽く捌きながら、問いかけてくる。
「甘い!こんなものではないだろう?」
もちろんこれで終わりではなく狙いは頭上。氷槍はただの目隠しだ。頭上から氷壁を落とす。
「…!なるほど!これが狙いか!」
ノヴァさんが頭上の氷壁を砕いた瞬間、僅かな隙が生まれる。その隙を狙い、槍を突き出す。
「ふむ。悪くないな」
「…ありがとうございます」
突き出した槍の穂先はノヴァさんに当たる直前に見えない壁で阻まれてしまった。
「だが、足りないな。君の欲望をさらけ出してみろ!」
どうやら壁は高い。だが、諦めるつもりはない。
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