第35話 前哨戦とSAN値直葬

 突然襲ってきた女性の攻撃を回避しつつ、思考を巡らせる。リグルはカスミという名前を呼んだ。そしてこの女性は「リグル様」と呼んだ。十中八九彼女がカスミだろう。となると眷属なんだろうか。それもただの主従関係には見えない。もっと深い関係だと推測する。彼女の怒り様をみる限り、あながち間違いではないだろう。さて、どうするか。


「この糞野郎!ちょこまか逃げてんじゃないわよ!ちゃんと戦えや!」


 カスミ(仮)は連続攻撃を放ってくる。何か格闘技でもしているんだろうか。妙に戦い慣れている。それに早い。一般人ならばこれだけでも制圧出来るだろう。ただ、


「(龍の攻撃と比べたらダメなんだろうけどさ、正直動きが読みやすいなぁ…)」


 読みやすい。こんな無駄な事を考えられる余裕がある。素直というか愚直というか。


 左のジャブで牽制し、右ストレートで打撃を与え、回し蹴りで追撃する。一連のコンボとしてはそんな感じ。その中にフェイントを混ぜようとしているが動作が明らかに他と違う。そのため予測しやすい。なので彼女の攻撃に合わせカウンターを狙う。


「ウザい!死ね!いつまで逃げ…グェッ!?ゴフォ!?」


 左ジャブを手の甲で軽く払い、右ストレートを放つ瞬間ボディブローをお見舞いする。身体をくの字に曲げた所で蹴りを顔面に叩き込む。カスミの身体が宙を舞い、地面をバウンドして数m転がる。


「オグ、ウゲエェェッ!」


 カスミはボディブローの影響で嘔吐している。その隙を逃すつもりも無く、氷の鎖で縛り上げる。


「クソがぁ!リグル様!リグル様ー!!」


「カスミ、カスミ〜!…うわぁぁん!死にたくないよー!!」


 鎖から逃れようと藻掻くがびくともしない。さて、これでリグルとカスミは捕縛した。泣き叫んでいるが問題は無さそうだ。後は


合成獣キメラか」


 コイツが一番問題だろう。なにせ北条姉弟が手も足も出なかった相手なのだから。


 改めて合成獣キメラを観察する。異形としか表現出来ない。SAN値がゴリゴリ削られそうだ。上手い表現が見当たらないのでざっくりと話すと虎と狼の双頭。背中から人間の腕らしきものが左右に三つずつ合計六本生えている。胴体は熊だろうか。大柄で筋肉質で毛に覆われている。腹部はパックリと裂けておりその中から謎の触手がうねうねしている。脚はなんだろう、無数の足が生えており、百足むかでを思わせる。その足の一部に人間の足が確認出来た。


「うわぁ…夢に見そう…」


「同意だよ…」


 せーちゃんが心底嫌そうな表情をした。俺も中々にキツイビジュアルで心が折れそうです…。


「グロロロ…キシャアア!」


合成獣キメラが鳴き声を上げる。向こうは臨戦体勢に入ったようだ。俺も構える。さぁ、殺し合うとしようか。

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