第34話 リグルと謎の女

 せーちゃんが名乗った結果、顔を青ざめてガタガタ震えるリグル。敵意は喪失し、こちらを見ようともしない。今の内にリグルを観察してみると


「…少年、か?」


「うん少年だね。アルくんと同い年ぐらい?もっと年下?」


 アルくんと言うのはせーちゃんの弟のアルバートの事である。どうやらせーちゃんの一族は魔族の中でも地位は高い、というか王族らしく、アルバートは次期魔界の王、通称魔王になるべく人間界と魔界の境界線にある『狭間の世界』の管理を行っている。『狭間の世界』の管理はせーちゃんの一族、ベルガンド一族が代々行ってきており、王となる条件としてその世界を治める事が通例らしい。ではせーちゃんはというと


「サラおばさんやイフおじさんの火の龍神夫婦に引き取られてたし、そもそもそんなに王様に興味無いからなぁ」とのこと。割と放任主義のようだ。


「悠馬、本当にコイツが人間を攫っていたのか?」


「おう。間違いねぇ。コイツが『接ぎ木』だ」


「マジか…人は見かけによらないな」


 改めてリグルを観察する。色素の薄い髮と薄紅色の瞳。身長は140cmぐらい。見た目は10歳ぐらい。小柄で華奢なため幼く見える。可愛らしく見えるが本当に見かけによらない。


「リグル。お前はなんで人間を攫った?」


「…決まっているだろ。合成獣キメラの材料にする為だ」


合成獣キメラを作るなら別の動物を使えばいいんじゃないか?なんで人間なんだ?」


「…人間は魔力導体として有用なんだ。魔力抵抗が少ないから魔力を上手く伝えやすい。としては最高だから」


 部品。そんな扱いされれば怒りが湧いてくるかと思ったら別にそんな事は無かった。上位悪魔アークデーモンになったからか、そもそも拘りがない為か、人間という存在に何か思う事がない。今回は友人として力になろうとした。悠馬か危ないのと、六花に頼まれたから、というので手伝ったがせーちゃんや友人、家族に関わる以外の事だと見て見ぬ振りしているかも知れない。我ながら薄情な奴だ。


「悠馬。コイツは捕まえたらどうするんだ?」


「本部に引き渡すよ。その後は…処刑だろうな」


「ヒィッ…!」


 リグルの震えが更に強くなった。目には涙が浮かんでいる。可哀想だが、自業自得でもある。


「嫌、嫌だよ…助けて…カスミ、助けて…」


「カスミ?」


 誰かと問うのと同時に背後で爆発音が響いた。慌てて振り返るとそこには見知らぬ女性がいた。歳は20歳ぐらいか。茶色のセミロングに切れ長二重の目。長身でスレンダーな体型。目には憤怒が浮かんでいる。


「よくも、リグル様を…!リグル様を離せ!でなければ殺してやる!」


襲いかかってきた謎の女性と戦闘が始まった。

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