魔人の花婿〜婿入りしたのは魔界の支配者の一族でした。可愛い嫁の為に奔走します

第26話 誤解と新たな友人

「さぁ、答えなさい」

「命狙われるかもしれないのに言えと？しかも俺だけじゃなくて主である魔人が狙われるかもしれないのに？」

「そうよ。ちなみに拒否権はないわ」

　自分の馬鹿さ加減に呆れる。ノコノコついて行って拘束されたあげく、せーちゃんを危険に晒しかねない状況に立たせるだと。嫌になるな。そんな俺に助け舟を出したのは意外にも北条六花の弟である北条悠馬だった。

「姉ちゃん落ち着けよ。今日一日、というか半日監視してコイツは生徒を傷付けていない。傷付ける素振（そぶ）りすら無かった。あの魔人の眷属ならとっくに生徒達を殺すか、攫って実験材料にしてるさ」

「ゆーくん…でも」

「悪いな汐見。ちょっとヤバい事件が起こっていたんだ。それで姉ちゃんがピリピリしてたのさ。悪気は無いんだ。でもそれで許せとは言わない。ただ、怒りをぶつけるなら俺にしてくれ。殴られるぐらいなら甘んじて受け入れるからさ」

「俺も別にアンタ達には怒っていない。自分の馬鹿さ加減には呆れていたがな」

「お前は悪くないよ。勝手に連れてきたのは俺達だ」

「ゆーくん！」

　北条六花が苛立ったように大声をあげる。北条悠馬は肩を竦める。

「姉ちゃんの気持ちは分かるけど焦り過ぎだよ。まだ汐見が『接ぎ木』の眷属とは限らねぇだろ？」

「む〜それは、そうだけど…」

北条六花は納得いっていないようだ。唇を尖らせ不満そうにしている。

「ちなみに汐見、グリムって奴は知ってる？」

「グリム？誰だ？」

「誰だと思う？」

「…？良く分からんがその『接ぎ木』って奴じゃないのか？」

「なるほどねぇ。確かにそう思っても仕方ない流れだよな。姉ちゃん、汐見の言葉に動揺や嘘はあるか？」

「…いいえ、全く感じなかったわ」

「まぁ、そういう事だろ」

「…そうね。とりあえず信じてあげる」

「おい、ちょっと待ってくれ。どう言う事だ」

「汐見は事件に無関係だったって事さ」

「…ごめんなさい。焦り過ぎたわ」

　北条六花が頭を下げて謝罪してくる。風の拘束は解かれ、身体が自由になった。

「悪かったな汐見。巻き込んでしまって」

「アンタ達にも事情があるんだろうし、許すよ。俺はもう気にしない」

「器が大きいな」

「そんな事は無いよ。俺だけなら別に良かったけど、俺の主、せーちゃんまで傷付けられたら流石に怒っていた」

「せーちゃんってあれか？汐見の妻じゃなかったか？」

「そうだけど」

「てことはあれか。主でありながら妻なんだな」

　北条悠馬は興味深そうにしている。まぁ、魔人の妻なんて人間界では珍しいんじゃないかな。

「その、せーちゃんって女性の魔人かしら？」

「うん。そうだよ」

「…あぁ、なら本当に人違いね。ごめんなさい汐見くん」

「いいって次は気を付けてくれよ？」

「分かったわ」

　素直に北条六花は頷く。意外にも素直な性格なんだろうか。

「まぁ、あれだ。手伝える事があるなら手伝うからさ。頑張ってくれ」

「おう。悪いな。汐見」

「あぁ、それと別に苗字でなくて名前でいいぞ」

「お、そうか。なら湊って呼ぶか。俺等も名前でいいぞ。同じ北条だから分かり辛いだろ？」

「分かったよ。悠馬と六花って呼ぶぞ。これからよろしく」

「おうよ。よろしくな湊」

「よろしくね湊くん」

　こうして秘密を知る友人(？)が二人出来た。