第19話 魔法禁止とドラゴンスレイヤー②
「死ぬかと思った…」
龍から吐き出された光線を紙一重で回避した。紙一重というか、左腕をかすった。火傷を負っているようで焼けるように痛む。
早急に決着しないとマズいかな。今残っている全魔力で身体強化を行う。短期決戦となるだろう。龍もそれを気付いたのか、警戒しているようだ。
一瞬の静寂に睨み合う。次の瞬間
「フッ!」
「ゴアアアア!」
地面を蹴り、龍に高速で接近。奴は俺を潰そうと尾を振り降ろす。回避しながら尾を蹴り飛ばす。奴の身体が僅かに傾く。
「ウラァア!」
「グオオオォォ!」
振り回す前脚を左で殴り返す。一瞬の拮抗。拳から血が噴き出す。痛みを無視して、殴り飛ばす。僅かに奴の身体が浮いた。
「セイヤァ!」
「グゥオ!?」
次は右の拳で龍の顔面を殴りつける。その勢いのまま、殴り続ける。両手の拳が砕けたのか上手く力が入らないが関係ない。後でヨル先生に治して貰おう。
龍がこちらを睨み、大きく息を吸い込む。これだ。これを待っていた!勝負だ!俺が勝つか、お前が勝つか。決着をつけるぞ!
龍の口から光線が放たれる瞬間―
「ウオオオオオォォォ!!」
全ての力を込めて、龍の顔面を蹴り上げる。強制的に口を閉じさせた。脚が砕けた。これで俺は動く事が出来ない。次の瞬間
「ングアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!」
無理矢理閉ざした結果、エネルギーが逆流し、龍の身体が光を放ち、膨れ上がる。断末魔を上げながら龍は暴れている。そして
ドゴオオオオオオオオン!!!
「ゴハッ!グアァ!…痛ぇな」
龍が爆発した。至近距離にいた俺はその衝撃波によって俺は吹き飛ばされる。数m程飛んで、受け身も取れず、地面に叩き付けられる。複数回地面をバウンドし、落ちるように倒れる。身体強化は解いていないのでこの程度で済んでいるが、普通なら死んでいてもおかしく無い。
強烈な光が止むと龍の姿は無かった。自身の攻撃で滅んだ。俺はぼんやりと眺めていた。身体が動かない。今ので全身の骨が砕けたのかも知れない。途方に暮れていると柔らかい光が俺を包み込む。痛みが無くなり、徐々に身体の力が戻って来る。これはヨル先生の力だ。治癒魔法を掛けてくれているんだと気付いた。
「ミナさま〜!大丈夫ですか〜!」
ヨル先生が俺に抱き着いてくる。普段は眠そうな表情を今にも泣き出しそうな表情に変えて。
「あはは…何とか。治癒魔法を掛けて貰ってありがとうございます」
「良かった…良かった〜!うわぁ~ん!ミナさまが死んじゃうって…私のせいで…ミナさまが死んじゃうって思って…うわぁぁ〜ん!」
ヨル先生は泣き出してしまう。どうやらヨル先生は心配してくれていたみたいだ。まだ痛みが残る手でヨル先生の頭を撫でる。ゆっくりと落ち着くまで。
◆◇◆
「ごめんなさい…」
ヨル先生は頭を下げた。既に泣き止んでおり、目元が赤くなっている。
「私が無理させたから…ミナさまなら大丈夫だって思って…それぐらい強いんだって知って欲しくて…」
ヨル先生がか細い声で呟く。どうやらヨル先生の想定を超えていたようだ。というか、俺への評価がやたら高い。そんなに思ってくれたんだと分かると嬉しく思う。元よりヨル先生に怒りや恨みは無い。俺なら戦えると信じてくれた。戦いを見守ってくれた。怪我は俺のミスだ。ヨル先生は悪く無い。それをちゃんと伝えよう。
「ヨル先生。ありがとうございます」
「…え?」
「俺を信じて、見守ってくれて。俺なら龍に勝てると思ったから任せてくれたんですよね。ヨル先生に信じてもらえて嬉しいですよ。それにヨル先生が見ているから頑張ろうって。先生には良いところを見せたいと思ったんです」
「あ、うぅぅ…」
「ちょっと怪我しちゃいましたが、無事勝てました。ヨル先生が居てくれたからです。ありがとうございました」
「ミナ、さま…ミナさま〜!」
ヨル先生は再び抱き着いてくる。また泣かせてしまったな。でも
「えへへ〜ミナさま〜ギュ〜ッ」
笑顔が戻ったし、まぁ良いかな。やはり泣き顔よりも笑顔が良いな。
こうして、魔法を使わずに龍を倒した俺は更に強くなろうと決意する。せーちゃんにヨル先生。二人を悲しませない為に。二人の笑顔が続くように。
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