第18話 魔法禁止とドラゴンスレイヤー①

 虚ろの庭ホロウ・ガーデンの鍛錬5ヶ月目。最近だと上位の魔獣は十数体程度なら無傷で勝てるようになってきた。ヨル先生曰く魔力もここに来る前に比べて十倍は多くなっているとの事。魔法も着実に強くなっており、以前は切り裂け無かった鬼を水の刃で切断出来るようになっている。ヨル先生との訓練に加えて自主鍛錬の成果なんだろうか。驚く程順調だが、気を緩めるつもりは無い。せーちゃんはこの何倍、何十倍も強いとの事。まだまだ先は長い。


「ふむふむ〜。ミナさまは〜水と闇の適性が強すぎるのか火魔法がちょっと苦手みたいです〜」


「あ、やっぱりそうなんですね。どうも火魔法は上手く使えないというか」


 火魔法が使えない訳では無いが、水や闇に比べて魔力の消費量が多いし、威力が出ない。苦手なのは気付いていた。


「戦いでは水と闇がメインですね〜。あくまでも火は補助です〜長所をどんどん伸ばしていきましょ〜」


「分かりました。今日はどんな訓練ですか?」


「今日は〜魔法禁止です〜」


「え?」


「敵は〜下級の龍にしましょ〜か。下級とはいえ龍は上位の魔獣ですよ〜お気をつけて〜」


「え?」


「素手で倒しましょ〜。あ、身体強化はオッケーですよ〜」


「え?」


 いきなり難易度が跳ね上がったな。


「じゅんびはいいですか〜行きますよ〜」


「え、ちょ」


「えいや〜」


 ヨル先生の掛け声と共に龍が出現した。全長約10m程で赤色の硬質な鱗で覆われた身体。爬虫類を思わせる縦長の虹彩の瞳。背中に巨大な翼を携えており、尾まで棘が生えている。


「…やるしかないか」


 身体強化を使い、龍と対峙する。龍はゆっくりとこちらに近づく。今までの魔獣とは違い、強者だとはっきり分かる。お互いの距離は約五m。


「先手必勝!ハッ!」


 跳躍。龍に蹴りを放つ。だが鱗で守られた身体は傷一つ付かない。鬱陶しそうに尾を振り回し、潰そうとしてくる。咄嗟に後方に回避。鼻先を尾が掠める。風圧だけで吹き飛びそうだ。


「グオオ!」


「食らうか!」


 龍の攻撃を回避しつつ、弱点を探る。鱗に守られている箇所は難しい。ならば鱗が無い箇所なら


「フッ!」


「グルア!」


 目を狙い跳躍。振り回す尾を足場にして接近。回し蹴りを放つ。が


「チッ!」


「グラァ!」


 目に当たる前に前脚に防がれ、吹き飛ばされる。前脚を蹴って衝撃を和らげる。空中で体勢を整え着地。膠着状態へ。


「(決め手に欠けるな。どうした物か)」


 鱗は硬すぎる。目を狙うしか無いが隙が無い。攻撃の手が止まった俺を見かねてヨル先生がアドバイスをくれた。


「ミナさま〜身体強化は使っていますか〜。目をちょっと強化すると〜きっと見えると思いますよ〜」


「見える?」


 どう言う事だろう。何が見えるのか。とりあえずヨル先生のアドバイス通り目を強化してみようか。すると


「(これは…?アイツの動きが予測出来る。いや、遅く見えているんだ)」


 先ほどに比べ、龍の動きが遅く感じる。動きが予測出来る。そう言う事か。動きが分かるならこっちの物だ。


「ハッ!」


「グゥ!?」


 叩きつけて来る尾を別の角度に受け流し、前脚の攻撃も捌く。慣れてくると動きは単調だ。敢えて隙を作る。振り降ろす前脚を踏み付け、跳躍。狙うは目。正拳突きを片目に叩き込む。龍が初めて苦悶の声を上げた。よろめいた所で龍の顔面を蹴り飛ばす。


「うらぁ!」


「グアア!」


 腕と足に力を入れて尾を掴み、背負投げの要領で地面に叩き付ける。うめき声を上げている。ダメージは与えられている。


 龍がこちらを睨み付け、大きく息を吸い込む。これは、マズい!


 次の瞬間


「ガアアアアアア!!!」


 龍の口から極太の光線が吐き出された。

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