第17話 適性と鬼退治

 虚ろの庭ホロウ・ガーデンの鍛錬2ヶ月目。ヨル先生が提案したのは驚くべきものだった。


「今日は〜鬼と戦ってみましょ〜」


「鬼、ですか?鬼人オーガとは違うんですか?」


 魔人の眷属は上位悪魔アークデーモン大鬼人ハイオーガの二種類に転生する。鬼人オーガ大鬼人ハイオーガの下位に当たる存在だ。どちらも魔法適性が低い代わりに身体能力が高く、鋼の如く強靭なため生半可な攻撃ではダメージを与えられない。


「はい〜。鬼は鬼人とはちがい、むさべつに人をおそいます〜。見た目もけっこーちがうんですよ〜」


「どんな見た目なんです?」


「ん〜黒くて〜牛さんみたいな角があって〜大きいです〜」


「なるほど。何となく想像出来ました」


 色はともかく、大体知ってそうな見た目である。


「たまにですが〜顔が二つあって〜手と足が四つあるのがいます〜」


「…両面宿儺?」


「そ〜とも呼ばれていましたね〜。鬼と言っても色々あるんですよ〜」


 マジか。両面宿儺って鬼神じゃなかったっけ?実在したんだ。


「今日は〜普通の鬼と戦ってみましょ〜鬼は中位から上位の魔獣です〜お気をつけて〜」


「分かりました。お願いします」


「あ〜それと〜今日は〜水魔法のみでお願いします〜。闇魔法はまた今度です〜」


「水魔法のみですね。了解です」


「行きますよ〜えいや〜」


 ヨル先生の掛け声と共に巨大な人影が現れた。説明通り、黒い肌に牛のような角、人の三倍はある筋骨隆々の体躯という昔の絵巻に出そうなビジュアルである。


「グオオオオオオオ!!!」


「『水糸』」


「ゴォオォオォ!」


 線のように細い超高速の水の刃で切断を試みるが、皮膚を浅く切り裂いたのみで大してダメージにはなっていないらしく無視してこちらに迫って来る。無造作に振り回す腕を後方に跳んで回避しながら次の手を打つ。


「硬いな。なら『凍結』」


「グガ!?」


「『氷鎖』」


「ガア、ガアア!」


 鬼の足元を凍らせ、体勢を崩したところで氷の鎖を両手両足に巻き付け動きを封じる。


「『氷塊』」


「グアア、ガアア!」


 鬼の頭上から巨大な氷の塊を落とし圧し潰すのを試す。多少ふらついたようだが大したダメージは与えられていないな。


「『氷星球』」


「グガアア!」


 氷で生成した棘のついた球体に鎖がついたフレイル型のモーニングスターを振り降ろす。鉄を打ったような感触。腕は痺れ、モーニングスターは半壊したが、鬼の額から血が流れる。初のダメージだ。


「一番効いたのは打撃か。ついでにこれはどうだ『氷牢獄』」


「グゥガァバ…」


 鬼の顔面を水で覆い尽くし表面を凍らせ仮面のような形状にする。呼吸を妨げてみると、氷の仮面を外そうと藻掻いている。やはり呼吸は必要か。このまま窒息死させてしまっても構わないが試したい魔法がある。せっかくの機会だ。使える魔法は全て使ってみよう。


「『深海葬送』」


 「ゴガァ!?」


 鬼の身体を大量の水で包み込み、圧し潰す。深海の水圧をイメージした魔法だ。かなりの圧力が掛かっているはずだが、それでも耐えている。ならばこれはどうだ?


「『深淵領域』」


「グア…」


『深淵領域』は『深海葬送』の更に圧力を加え強化したもの。深海の中でも特に水圧が高い領域をイメージした。まだ未完成だが、効果はあるようだ。三倍はあった体躯は一回り、二回りも小さくなり、衰弱しているのが見て取れる。このまま圧し潰す。


 耐えてきた鬼の身体が限界を迎え、無色透明の水球が赤く染まる。念の為、そのまま維持する事、一分が経過。警戒しながら水を解く。鬼は完全に潰れたようで肉片が散らばった。


「お見事です〜鬼に圧勝しましたね〜すごいです〜」


「そうでもありませんよ。最後なんかゴリ押しでしたから。もっと強くならないと」


「『すといっく』ですね〜。でしたらまだまだ頑張りましょ〜」


「はい。お願いします」


「ミナさまは〜水魔法に強い適性があるみたいですね〜。闇魔法や他の魔法はまだ分かりませんが〜水魔法をメインに戦っていきましょ〜」


 ふむ。自分では良く分からないが、ヨル先生が言うなら間違いではないだろう。俺なんかよりもずっと魔法に詳しいだろうし。


「分かりました。水魔法を鍛えますね」


 こうして俺は更に水魔法の鍛錬を行うことを決めたのだった。

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