第14話 嫁と合鍵

 せーちゃんが作ってくれたカレーを一口。


「美味い!」


「えへへ、ありがとう。市販のルーだけど次は最初から作ってみようかな」


 作ってもらったカレーはトロッとしており、豚肉やにんじん、じゃがいもはゴロッと一口大サイズに切っており食べ応えがある。今回買ったのは中辛のルーで口に運ぶと突き抜けるような辛さと甘さのバランスがちょうど良い。米に関してはやや硬いがこれは俺のミス。カレー自体に文句を付けようがないぐらい完璧だ。


「市販のルーがこんなに美味くなるんだ。俺が今まで食ってたのは何だったのか」


「食材一つや調理一つでも結構変わるよ。ミナくんはこういう味付けが好きなんだね。覚えておこっと」


 料理って奥深いな。今まで適当に作っていたのを後悔した。もっとちゃんと作れば更に美味かったのかな。


そんな物思いに耽る俺をチラッチラッとせーちゃんが伺う。はて、なんだろうか。


「美味しいよせーちゃん。ありがとう」


「う、うん。喜んで貰えて良かったよ。それでね、ミナくんにしたい事があるの。やっても良いかな?」


「したい事?うん良いよ」


 何をしたいのか分からないが、せーちゃんなら何でもオッケーである。


「じゃあ、は、はいあーん」


 せーちゃんが自分のスプーンにカレーを乗せて俺に差し出した。なるほどこれか。


「あーん」


「…どう?」


「美味しいよ。じゃあ俺も。はいあーん」


「ふぇ!?ミナくんのスプーン!か、かか、間接キス…!」


 どうやら間接キスに戸惑っているようだ。…あれ?俺達キスしたよね?間接ではないキスしたよね?俺の存在しない記憶か?


「あーん」


「あぅ…、あーん…」


「どう?」


「美味しいです…」


 せーちゃんは顔を真っ赤にしている。どうやらせーちゃんは攻められるのに弱いかもしれない。せーちゃんの新たな一面に内心ニヤニヤしているとせーちゃんが頬を膨らませていた。


「む〜。ミナくん変な事考えているでしょ」


「せーちゃんが可愛いって思っただけだよ」


「あぅぅ…ミナくんズルいよ…そんな事言われたら嬉しくて何も考えられなくなっちゃう…」


「せーちゃん可愛い」


「…うぅ…ミナくんが私を褒め殺ししてくる〜」


 そんな感じで和やかに昼食の時間は過ぎて行った。


◆◇◆

 カレーを食べ終え、一緒に皿洗いした後、二人でまったりと過ごしていると


「ねぇミナくん」


「ん?」


「ミナくんが学校行っている間、私ここに居ても良い?」


 ふむ。別に見られて困るような物は無い。無い筈だ。…無いよね?


「いいよ。俺の部屋で良ければ」


「本当!?ありがとうミナくん!」


 パァッとせーちゃんの笑顔が咲き誇る。ギュッと抱きついてきた。ここまで喜んで貰えるとこちらも嬉しくなる。


「合鍵渡しておくよ。それ使って」


「ミナくんの合鍵!…これで…ミナくんの…えへへ…」


 ミナくんの…の後が気になる。何だ、俺の部屋で何するんだ。


「あ、だ、大丈夫!ミナくんのベットを使うだけだから!変な事は…しない…と思う」


 何に?何に使うんだ?何故言い淀む。何故目を逸らす。


「…ちなみに俺のベットをどう使うの?」


「えへへ…秘密!」


 笑顔で誤魔化されてしまった。…これ以上は藪蛇な気がしたので止めておく。



 …俺の妻はミステリアスな一面もあるという事にしておこう。

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