第4話 過去と回想②

「私のせいなの…?私がミナくんを巻き込んだの…?」


「せーちゃん?」


せーちゃんの顔色が悪い。どうしたんだろうか。


「ごめんねミナくん。あいつら私が、こっちに持ち込んだのかも…。ごめんなさい…」


言っている意味がよく分からなかったが、せーちゃんが泣きそうになっているのは分かった。だから


「せーちゃん、ギューッ」


「ミナくん…?」


「よくわかんないけど、くるしいなら、ぼくがたすけてあげる!だから、なかないで」


「ミナくん、ミナくん…!うぅ、グス…グス…うぅ〜…」


「せーちゃん、いいこ、いいこ」


声を押し殺し、静かに泣いているせーちゃんの頭を撫でながら慰める。せーちゃんが落ち着くまで抱きしめていた。


◆◇◆

それからどれぐらい経っただろう。時間としては五分ぐらいな気がする。せーちゃんは目元を赤くしながら俺を見ていた。既に泣き止んでいた。


「あいつらを倒さないと。このままだとこの町に住んでいる人達が危ない」


「たおすの?どうやって?」


「私ならあいつらを倒せる。ミナくんは」


「ぼくもてつだう!」


「えへへ、ミナくんならそう言ってくれるって思ってた。じゃあ手伝ってくれる?」


「うん!なにをすればいいの?」


「うん。まずはあいつらを一か所に集める。ミナくんは私が言う場所まであいつらを引きよせてほしい。私がミナくんを守るけど危ないかもしれない。ミナくんやってくれる?」


「わかった!『ようどうさくせん』だね!」


「うん。あいつらが集まった所で私が倒す」


「せーちゃんはだいじょうぶなの?」


「大丈夫。私、けっこう強いんだよ」


「わかった!きをつけてね、せーちゃん」


「ミナくんもだよ。絶対に無理はしないでね」


「うん!」


◆◇◆

「お〜い!こっち、こっちだよ〜!鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」


「キシャアアア!」


「キシャアアア!」


「キシャアアア!」


薔薇モドキを呼び寄せる。数は十匹はいる。動き自体はそんなに早くないから全然余裕だ。こちらに注意を向けさせるために大声を出したり、石を投げたりした。上手く誘導出来ているようで一心不乱にこちらに向かってくる。


せーちゃんが移動しているのが横目で見えた。集合場所はこの先にあるちょっとした広場だ。


広場まで全力で走り抜ける。森の中で走るのは難しいけど慣れている。せーちゃんと遊んでいてよく追いかけっこしていたからだ。


「や〜い、や〜い。のろま〜つかまえてみろ!」


「キシャアアア!!」


煽ってみた。薔薇モドキが苛立ったように叫び声をあげる。スピードが上がった。それでも遅いので追い付かれることは無い。


せーちゃんと約束した広場に到着。薔薇モドキが少し遅れてきた。ジリ、ジリと隅まで追い詰めようとしている。でも


「せーちゃん。あとおねがい!」


「任せて!」


俺と入れ替わるようにせーちゃんが薔薇モドキの前に立つ。


「ミナくんを傷つけようとしたな…。許さない…!『燃えろ』!」


「「「ギジャアアアアアアアアアアアア!!」」」


せーちゃんが叫ぶと薔薇モドキが一斉に燃え始めた。紅蓮の炎が轟轟と奴らを包み込む。何をやったのか分からない。魔法なのか。でもそんな事よりも


「すげー…きれー」


見惚れていた。せーちゃんとせーちゃんが出した炎に。今まで見た景色の中で一番綺麗だと思った。


不思議なのは、こんなに燃えているのに周りの木に燃え移っていないことだ。薔薇モドキだけを正確に燃やしているのだ。


やがて火が消えると薔薇モドキは跡形も無くなっていた。森に静寂が戻る。


「せーちゃん!すごい、すごい!めっちゃきれいだった!」


「えへへ…ありがとう。ミナくん怖く無かった?」


「うん!せーちゃんがいてくれたからだよ!ありがとう!」


「えへへ。どういたしまして。これでもう大丈夫」


「ほう。子供とはいえ、やはりベルガンドの一族か。人間のガキといる事は予想外だったが、まぁいい。任務を遂行するとしよう」


「「!?」」


突然現れたのは黒いフードで目元を隠したマント姿の人物だった。顔がよく見えないが声的に男のようだ。


「はじめましてかな。私はアラン。『魔神教』の『黒の庭』に所属している。大人しく私に付いてきて貰おうか。セシリア・ローズ・ベルガンド」

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