GONIN NO GOUKETSU

桶星 榮美OKEHOSIーEMI

第1話 GONIN・ NO・GOUKETSU

今まさに王宮に設けられた召喚の間において

91年に一度の

勇者の召喚儀式が執り行われているー!


一年がかりで作られた魔法陣は

大神官の呪文に応えるように

眩い青き光を高く放ち

五人の選ばれし豪傑を召喚した!


大神官が声高々に

「よくぞ集った、選ばれし勇者達よ」

と呼びかけ

青き光が消え五人の豪傑が姿を現した

召喚の成功に皆の歓声が響き

王は喜びと成功の安堵で立ち上がる


魔法陣の中に現れたのは・・・

豪傑・・・じゃ無いよね?

どう見ても五人のオバさんだよねぇ

それを見てざわめく召喚の間


王も不安になり大神官に問う

「この老婦人が勇者なのか?」

「はっ!召喚呪文に間違いはございません

 こてが五人の豪傑であります!」


大神官が自信満々に答えるので

王様は一抹の不安を抱きながらも

「よくぞ参られた五人の勇者よ」

と勇者に声を掛けた

その時・・・


「大神官さま大変です!」

と神官が顔を土気色にしながら駆け寄り

「魔法陣が・・・」

「魔法陣がどうした?」

「魔法陣が・・・

 GONIN・ NO・GOUKETSUが

 GONIN ・NO・GOKEZUに・・・」

「なにー!一年かけ作った魔法陣が

 間違っていただと

 GOUKETSUがGOKEZUって・・・

 じゃあ豪傑では無く後家を召喚したと

 なんでだよー!どうすんだよーー!」


「大神官よ一体何事だ」

「はぁ、それがですね陛下

 どうも間違って後家を召喚したようで」

「なんという事だ

 召喚儀式は91年に一度しかできんのに

 どうするのだ大神官」

「どどどうしましょう・・・」


静まり返る家臣と神官達


後家1

「ここどこ?」

後家2

「なになになに、どないなってんの⁈」

後家3

「ドッキリ?ねぇドッキリ?」

後家4

「いやだ、じゃぁテレビに出ちゃうの?」

後家5

「許可なく撮影なんて許さない!」

後家2

「とにかく責任者と話しょ」

後家5

「そうよね。責任者は誰⁉」

後家4

「責任者出てこい!!」


静かな召喚の間に響き渡る後家の声に

皆が大神官に神官達が目線を送るので

勘のいい後家達に一斉に囲まれて

オロオロする大神官


後家2

「あんたが責任者なんやね

 勝手に撮影するなんてかなわんわ

 放送倫理員会に訴えるでぇ!」


「いや、これはテレビでは無く・・・」


後家1

「YouTube?」

後家3

「YouTubeなの?」

後家5

「YouTubeなら何してもいいとでも⁈」

後家4

「迷惑ユーチューバーだ!」

後家2

「ほんま腹立つわぁ

 まだメイクの途中で眉毛書いてないねん」

後家3

「それでさっきから、おでこ隠してたのね」

後家2

「せやねん」

後家1

「そりゃ大変だわ」

後家4

「そうよね、眉毛は大事よ」

後家5

「そうそう、メイクしなくても

 眉毛だけは書かないとねぇ」

後家2

「あんた!女の眉を舐めたらあかんで!」


「いえ、けして舐めてなど・・・」

アワアワする大神官


後家1

「いい年した爺さんが迷惑ユーチューバー⁈」

後家3

「恥ずかしくないんですか~⁉」

後家5

「あーやだやだ!」

後家3

「警察に訴えてやる!」

後家4

「それより私達、誘拐されたんですよ」

後家1

「キャー!誘拐犯よー!」


後家達は誘拐されたと大騒ぎ

慌てて大神官

「皆さん落ち着いてください

 説明しますから、ちゃんと説明しますから」


後家2

「それより眉毛先がやん

 アイブロウペンシル持って来てんか!」

後家4

「あっ、私ちょうど買い物帰りで

 アイブロウマスカラ買って持ってるわ

 もしよかったら使って」

後家2

「いやぁ悪いなぁ~、お高いんやろぅ」

後家4

「プチプラよん、ギャンドゥーよん

 遠慮しないで」

後家1

「ギャンドゥーって若い子むけでしょ

 派手じゃないの?」」

後家4

「あら、結構使えるのよ

 アイシャドーとかアイライナーとか

 デパコスと変わらない品質なのよ」

後家3

「そうなの?」

後家4

「7000円のアイライナー買うなら

 1100円のギャンドゥーで充分よ。

 どうぞ、使って」

後家2

「そんなん使こたことないわぁ~

 どうやって使うのん?」

後家4

「やってあげる」


後家さん達、初見のアイブローマスカラに

興味津々で凝視


後家1

「うわぁ、綺麗ねぇ」

後家5

「本当だわぁ」

後家3

「いやぁプチプラってあなどれないのね~

 私もプチプラデビューしようかな」

後家2

「いやぁん、そんなに綺麗?」

後家1

「ほらコンパクトミラー貸したげるから

 見てみなさいよ」

後家2

「いや~ほんまやぁん、有難う。

 さあ、ほな話の続き聞きましょかぁ!」


大神官は意を正し

「私は、この国の大神官である」


後家さん達??顔


「本日は91年に一度行われる

 異世界より勇者を召喚する儀式を行い

 皆が召喚されたのである」


後家さん達は不信感で目を細め

このオッサン何言ってるんだ?

と大神官を冷ややかに見る

突き刺さる視線を感じながらも

なんとか威厳を押し出し


「喜べ異世界人達よ

 そなたらは選ばれし者なり」


後家4

「はぁ?」

後家1

「なに?異世界って?」

後家5

「バカにしてんの⁈」

後家3

「選ばれし者って、何を勝手に選んでるの⁈」

後家2

「あんた、ええ歳して噓ついて

 恥ずかしないん?」


話は通じないし、

自分の溢れ出る威厳を見ても

全く有難がらない後家さん達の態度に

顔を引きつらせる大神官は切れ気味に


「選ばれたんだから、もっと喜べ!」


後家5

「はぁ!なんで喜ぶのよ⁈

 異世界ってなによ?」


「地球では無い世界だ」


後家3

「えっ⁈ここ地球じゃ無いのー⁉」


「そうだ」


後家4

「そりゃNASAもビックリじゃない」

後家5

「本当に?地球じゃないの~?」


「本当だよ!」

もう本格的に切れる大神官


後家2

「なんで異世界から召喚すんねん?」


「古来より異世界の勇者に

 国の平和と安寧を委ねる慣わしなのだ」


後家1

「それって他力本願よねぇ」

後家4

「そうよね、自分達で如何どうにかすべきよ」

後家5

「古来から他力本願で安寧してたなんて」

後家2

「他人様に丸投げは、あかんでぇ」

後家3

「自力でどうにかしなさいよ」


うっ、と言葉に詰まる大神官


後家4

「私達を召喚した目的は何なの?」

後家3

「何がして欲しくて連れて来たのよ?」


「いやぁ、貴女達を召喚するはずではぁ

 ・・・・・えっと・・・・」


後家2

「はぁ?私達を召喚するはずじゃ無かったん?

 一体どういう事なん⁈」

 

「えっとですねぇ、間違えまして」


後家4

「何を⁈」


「ちょっとした手違いがありましてぇ

 GONIN・ NO・GOUKETSUのはずが

 GONIN ・NO・GOKEZUと間違えまして

 いやぁ何で間違えたかなぁ」


段々と威厳を表せなくなる大神官


後家1

「んじゃぁGOUKETSUをGOKEZUを

 間違えたって事なの?」


「そうです、そうです」


後家4

「そうです、じゃ無いわよ」

後家3

「GOKEZU・・・

 まぁ私は後家だけど・・・」

後家1

「あら、私も未亡人よ」

後家2

「私も未亡人なんやわぁ」

後家4

「私も未亡人だから後家なんだけど」

後家5

「いやだ~じゃぁ全員未亡人じゃないのぉ」

後家1

「GOKEZUだから未亡人が集まったわけ?」

後家3

「豪傑を呼ぶはずが後家さん集合なんて

 なんか笑えるわねぇ」


「笑い事じゃ無いです、豪傑のはずが

 初老の小母さんが来ちゃって

 どうしたらいいのやら・・・」


後家2

「あんたぁ!誰に初老やと言うてんの?

 私はまだ65やでっ、失礼な!」

後家3

「ほんと失礼だわ!」

後家5

「ジジイに小母さんなんて言われたくないわ」

後家1

「女性に対して失礼よ!」

後家4

「私達に初老なんて!

 じゃぁ貴方は何歳なのよ⁉」


口々に大神官を責め立てる後家さん達


「2024歳です」


後家4

「えっ⁉2024歳!」

後家5

「なに冗談言ってるのよジジイ」


「本当です、2024歳です」


後家1

「はっ!なんか違和感があると思ったら

 ここに居る人達、耳が変。

 耳が尖って横に伸びてる!」

後家3

「ああ、それ気が付いてた」

後家2

「あれやんなぁウルフやんなぁ」

後家4

「いや、ウルフじゃ無くてエルフよ~」

後家2

「いやん、間違えてもうたわ

 えらい恥ずかしいわぁ~」

後家5

「そのくらいの言い間違えなんて

 日常茶飯事よぉ。

 貴方達エルフなの?」


「いえ・・・ちょっと違うけど

 まぁ似たような者です、はい」

 

後家4

「2024歳に小母おばさん呼ばわりなんて

 されたく無いわよ!ねぇ~」


皆に同意を得る後家4

そして口々に大神官に

怒りの言葉を放つ後家達


「す、すみませんでした!」


頭を下げる2024歳の大神官

その隣で固まりすぎて石になる王

じっと動向を横目で見詰める神官達と家臣達


後家5

「あのさっ間違えて呼んだなら

 さっさと帰してくれない」

後家1

「そうよね、失礼な発言は許すから

 早く帰してよ」

後家2

「さっさと帰してぇなぁ」

後家3

「早く帰って韓ドラ観ないとー!」

後家4

「さっ、帰してちょうだい」


「えーっと、それは無理です」


後家1,2,3,4,5

「はぁーーー⁉」


「召喚できても送り返すのは出来ません」


後家2

「なんでぇー⁈」


「それはですね、魔法書に載ってないから」


後家3

「はぁ!怠慢じゃない!

 2024年も生きてるんでしょ

 なぜ魔法を発展させないの⁈」

後家1

「進歩なきは後退と同じよ」

後家4

「91年に一度なら

 その91年間なにしてたの」

後家2

「91年あれば猿でも進化するわ」

後家5

「あーもう!他力本願だし怠慢だし

 長く生きてて恥ずかしと思わないの!」


そうか確かにそうだ

なぜ今まで魔法の研究をしなかったのだ

と目から鱗の大神官は震えながら言う


「まさにその通り、

 恥ずかしい事この上ない」


後家1

「帰れないって事は

 これから死ぬまでここで過ごすの?」

後家5

「まさか間違えて召喚したからって

 放り出すつもりじゃ無いでしょうね」

後家3

「そうよ、これからの生活は

 ちゃんと見てくれるのよね⁈」


「それはぁ王がお決めになることで・・・」

と隣に立つ王に目をやる大神官


後家5

「貴方、王様なのぉ?」

後家1

「なんか絵に描いたような格好」

後家3

「ザッ王様じゃない」


王の前に立ちはだかる後家さん達


後家5

「王様、ちゃんと私達の生活を

 保証していくれるんでしょうね?」

後家2

「衣食住の充実を要求する!」

後家4

「こっちは来賓なんだから

 当然、上げ膳据え膳よ」

後家1

「専属のメイドと執事も要求する」

後家3

「服は全てオーダーメード」

後家2

「メイク道具はバッチリ揃えといてな」

後家5

「部屋は広く、ベットはクインサイズ」

後家2

「それええなぁ~、ベットに天蓋も付けて

 気分はお姫様やん~」

後家1

「そうよねぇお姫様よねぇ~

 って、聞いてるの⁈王様」


この国の女性は皆さんしとやかで

ゆったりとお話するので

王は次から次へと絶え間なく

まくしたてる後家さん達に圧倒され

気絶寸前である


後家1

「なんで黙ってるのよ」

後家5

「あれですか、私達平民とは話せませんか?」

後家4

「うわぁ嫌だ、えらぶって」

後家2

「あんなぁ、あんたは王様でも

 私達の王様と違うんやで

 威張ったりしたら許さへんから

 覚悟しいやぁ!」

後家3

「そうよ、王様なんて怖くないんだから

 威厳なんて全然感じないし」


王は言葉が出ず口をパクパクさせている


後家3

「なによ?言いたいことがあるなら

 言いなさいよ」

後家5

「脅したって怖くないんだからねっ

 私達後家が怖いのは税金だけよ!」

後家2

「せやせや、税金だけやしぃ」

後家4

「貴方が最高責任者なんだから

 しっかり落し前つけなさい!」

後家1

「どうなのよ⁈

 こちらの要求を飲むの飲まないの⁉」

後家3

「答えなさいよ!」

後家4

「早く答えろ!」

後家5

「王のくせに決断力がなさすぎ」

後家2

「アンタしっかりしぃやぁ

 ほんま情けないやん」


世継ぎとして生まれ、赤子の時から

蝶よ花よと育てられ

王に成ってからは皆にあがめられ

誰からも口答えも文句も言われた事なく

1846年生きてきた王のハートは

生まれて初めて打ちのめされ

哀れな程ズタズタに傷つき

硝子のように砕け散ってしまった


後家1

「どうなのよ!」

後家2

「どないすのん!」

後家3

「どうするの!」

後家4

「どうなの!」

後家5

「どうするんですか!」


王は崩れ落ちる様に土下座し


「止めてー、それ以上は責めないでー

 全部要求通りしますから

 皆さんの希望通りしますから

 もう、もう、もう勘弁してくださーい!」


召喚の間に響き渡る

勘弁してください・勘弁してください

との王の必死の懇願の言葉・・・

それを聞いて震え上がる召喚の間の者達

それを聞いて満足している後家さん達


五人の豪傑より豪傑な五人の後家さん


この後、召喚の儀式は禁戒きんかいとなり

二度と行われることは無かった


古よりの伝統をも変える後家パワーであった



     ————おしまい————


 



 




 






















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