第22話 スーネとウービ
次の日、僕とリンは槍を持って扉の前にいた。講習を受けるために冒険者ギルドに訪れようとしていたのである。僕はそこで軽く深呼吸をする。今回は前回と違い、ヤクザはいないので普通に入っていける。ルイはヌー爺さんに頼んでいた神性石を取りに行っていた。僕はそれが少し嬉しかった。なぜなら
リンはそんな僕の内心を知らずに、早く入れと促す。
「何をしてるんじゃ?さっさと入るぞ」
今回は二人で入っていった。すると今回は中にいた冒険者たちがこちらをちらっと見て、何事もなかったかのように会話を続けた。そうやらルイがいないと前回のようにはならないらしい。安心した。僕らはそのまま受付へ向かう。このまま何事もなく、受付に行けるなら、前回ルイとは別行動したほうが良かったのではないだろうか。そう思ったが、少し歩くと横から女性が声をかけてくる。
「おい、おみゃーたち!」
「?」
たぶん僕たちの事だろうと思い、リンと一緒に横を見る。すると二人の猫の獣人が僕たちを見ていた。
「おみゃーたち、弱そうだからミャーの舎弟になれ」
「!」
このとき僕は察した。絡まれているのだ、僕たちは。そして二人のうち黒とグレーと白が混ざった毛並みを持ち、短髪の女性の20歳くらいの女性が僕に指を指して言った。
「特におみゃー!おみゃーは特に弱そうだから、ミャーが鍛えてやる!感謝するみゃ!」
みゃーみゃーうるさいと思った。それに僕は関わりたくないと感じた。だから言う。
「これから講習があるので、大丈夫です。お断りします」
「みゃ⁉講習だけじゃ強くなれないみゃ!」
「いえ、他に鍛えてくれそう方もいるので…」
ルイとかリンに頼めば稽古でもつけてくれると思う。だから舎弟になる必要はない。
「そうなのみゃ…。そ、それならいいみゃ」
彼女は少し残念そうな顔をして、引き下がろうとした。意外にあっさりしている。『弱そうだから舎弟になれ』と言うからもっとトラブルになるかと思っていた。だが違うようだ。それを見て周りにいた冒険者たちがクスクスと笑い、彼女に声をかける。
「おい、スーネ。やめとけって。そいつら死神の使徒の連れだ。お前も昨日いただろ」
「そうだぞ。例のやつはそいつらには止めとけ」
どうやらこのスーネと呼ばれている彼女は、弱そうな冒険者を見つけては時々声をかけているらしい。この光景はこの冒険者ギルドではお決まりなのかもしれない。ただ昨日いたのなら何で今日になって声をかけて来たのだろう。
するともう一人のベージュに近いオレンジと白の毛並みをした20歳程の猫獣人の女性が無表情で呟く。
「スーネは死神の使徒にビビってた。だから今日声を掛けてる」
「みゃ⁉ミャーはビビってなかった。ウービがビビってたみゃ」
「あたしは違う。寝てたから」
「寝てたなら、何でミャーがビビってたことを知ってるみゃ?」
「「…」」
僕とリンは黙って彼女たちの話を聞いていた。そしてスーネがアホだとわかった。またルイはただの性格の悪いヤクザじゃなかった。性格が悪くて役に立つヤクザだった。
さすがにリンが黙っていられなかったのか、口を開く。
「そなたらは喧嘩がしたいなら、向こうでやっておれ。儂らはこれから講習を受けねばならぬ。おそらくその教師役もおるだろうから、待たせるわけにはいかぬのじゃ」
すると彼女らはじゃれあいを止めて、こちらを見た。そして笑顔になる。嫌な予感がする。
「それなら問題ないみゃ」
「ん?なぜじゃ?」
「だってミャーたちがお前らの講習の担当者だからみゃ」
僕は思った。だったらなぜこの場で声をかけてきたのだろうか…と。
その後受付にいたヘレナさんに声をかけ、冒険者ギルドに併設されている訓練場に四人で入っていった。どうやら今回講習を受けるのは僕とリンだけのようだ。既に人数は揃ったので、さっそく講習を開始した。
「まずはミャーたちの自己紹介からみゃ。ミャーはスーベラネオ。スーネと呼ばれているみゃ。先輩なので、さん付けで呼ぶみゃ」
「あたしはウービ。よろしく」
「よろしく頼むのじゃ。スーネ、ウービ」
「よろしくお願いします。スーネ、ウービさん」
「何でミャーだけ呼び捨てみゃ?」
「スーネは独りよがり。尊敬されてない。だから敬称つかない」
「みゃ⁉」
スーネはショックを受けた。そして固まる。図星でも突かれたのかな。ウービさんが言葉を続けようとする。
「だからスーネは…?スーネ?」
「…」
へんじがない。ただの しかばね のようだ。
「そなたらふざけるのは止めてさっさと進めるのじゃ」
リンは講習のテンポが悪くて、少し怒っている。
「わかった。ただあたしもスーネと同様呼び捨てでいい。敬語も必要ない」
「わかったよ。僕は仁。彼女は…」
「リンじゃ」
僕らの互いの自己紹介が終わった。ただウービの言葉を聞いたスーネは嬉しそうにした。
「ウービも呼び捨てみゃ?ならミャーと平等みゃ。尊敬されてないわけじゃないみゃ」
そんな解釈があるのだろうか。疑問である。そして猫の獣人が周りにいないせいかスーネの『みゃ』がうるさく感じてたのだろう。リンはスーネに直接言う。
「スーネ、さっきからそなたの言葉がうるさく感じる。その語尾はなんとかならんのか?」
「スーネはあなたたちに媚びてる。だから仕方ない」
「仕方なくないみゃ!ミャーは人間に媚びない。それにこれはミャーの集落の方言みたいなものみゃ。故郷をバカにするやつは許さないみゃ。我慢するみゃ」
方言みたいなものなのか…。
「ふむ。でもウービは普通に話しておるではないか。スーネもやろうと思えばできるのではないか?」
「ウービはミャーとは別の集落出身みゃ。それにミャーはこの方言に誇りを持っているみゃ!」
「スーネも不快感を与えようとしてやっているわけじゃない。我慢して欲しい。それにしばらくすれば慣れる」
「そうか。では慣れるまでは我慢するのじゃ」
ウービはスーネの肩を持った。そしてリンはスーネの方言が故郷の誇りだと聞いて一歩引いた。
「では講習を始めるみゃ」
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