第7話 彼女の名前

「おい仁、起きろ」


 彼女の声が聞こえて目が覚める。


「出発するぞ。これを食っておけ」


 そう言われて再度例の栄養補助食品を一本差し出される。彼女は準備をしてきたと言ったが、いったい何をどれだけ準備してきたのだろうか?気になる。彼女も同じものをもそもそ食べている。これを食べると口の中が乾くが、村に行くまでは水はないそうだ。立ち上がり、洞窟から出て朝日を浴びる。なんだか体の調子がいい。やはり一晩寝たおかげだろう。ただそのせいで彼女に一晩中見張りを任せてしまった。


「見張りをありがとうございました。一晩中お任せしちゃいましたけど大丈夫ですか?」

「問題ない。儂は神じゃからな」


 神に睡眠は不要なのだろうか。便利だな。僕の中の『彼女は神メーター』が少し上がった気がする。


「仁、これから村へ行く。その村には一人知り合いがおるが、知らぬ者にとっては儂らは不審者じゃ。だから冒険者を名乗れ。」

「冒険者?」


 冒険者…。冒険者はイメージ的にモンスターを狩る職業である。ということはこの世界にはモンスターがいるということであろうか。


「冒険者がいるということはモンスターがいるということですか?」

「おる。基本的に人が住んでいない場所で活動しておるな。奴らは悪神の眷属などとも呼ばれる」


 詳しく聞いてみた。どうやらこの世界には僕が知っている動物とは違う生き物がおり、この世界の人間と生存圏の奪い合いをしている生物がいるようだ。この森の深いところにも出てくるようである。そしてそのモンスターは原始的な欲求が強いものが大半であり、その性質が悪神の力に大きく貢献しているのだとか。そして今もっとも勢いのある悪神は略奪の神であり、モンスターの奪いたいという思いのもとにその神が生まれたのだそう。

 どうやら結構危ない世界のようだ。


「それと儂に敬語を使うのを止めろ。お前が儂に敬語で話すと変な疑いをもたれるやもしれぬ」

「わかりました。ちなみにあなたのことはなんとお呼びすればいいですか?名前がないとなると村の人たちに怪しまれますよ」

「そうじゃな。儂のことはリンと呼べ。村の知人にもその名前を名乗っている。そして今から普通に話せ」


 村の知人にも話しているということは今考えた偽名ではないということだろうか。とにかく名前を呼んでもよいというのであれば村の中で変な気を使わずに済む。


「わかったよ、リン。よろしくね」

「ふむ。それでよい」


 彼女は満足そうに頷き、歩き出した。

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