第8話 帰ろうか~もう帰ろうよ~♪

 森を抜け、少し歩きようやく村が見えてきた。村の周りには簡易的な木の柵と堀が作られており、畑と木造の家が見えた。そして村の入り口に村人の男性が2名、槍を持って立っていた。第一村人発見である。僕らが近づくと彼らも僕らに気付いた。僕は友好的な笑みを浮かべて近づこうとした。だがそれとは対照的に彼らは僕らに槍の穂先を向け、厳しい顔つきで怒鳴った。


「止まれ!何者だ?」

「!」


 驚いた。なぜかは知らないが彼らはピリピリしているようだ。何があったのだろうか?彼らの問いに懐から鉄のようなプレートを出してリンが答えた。


「儂はリン。冒険者じゃ。この村の村長とレオナの知り合いじゃ。町に行くまでの食料などを交換してほしい」

「なに…」


 村人の男二人はプレートを見た後に顔を見合わせると、一人の男が村のほうへ走っていった。

「今確認に向かわせた。少し待て」

「それはいいが何があった?儂が以前来たときは何事もなく村に入れてくれたではないか」

「村長の指示だ。あんたらが村長と知り合いなら村長が教えてくれるだろう」


 やはり何かあるようだ。たださすがに僕らも村に入れてもらわない困る。ここは穏便に待つしかないどうだろう。

 しばらくすると杖をついた白髪の老人と20代後半のくすんだ茶髪をした女性が現れた。


「ロボス入れてやりなさい。その方々は客人だ」

「わかりました。村長」


 村長っぽい老人が見張りの男の名を呼ぶと、すぐに入れてくれた。どうやらリンと村長が知り合いというのは本当のことのようだ。


「お久しぶりですな。リン様」

「リン様お久しぶりです!」

「ふむ。元気そうだな。安心したぞ。そなたら」


 リンが知り合いどうしで挨拶を交わす。敬称で呼ばれているので、どうやら敬われているらしい。


「それでそちらのお方は?」

「こやつは仁。儂の連れじゃ。村長、この村にある食料や水や服を交換して欲しくて来た。だが何かあったようじゃな」

「今はまだ何も起こっておりません。ただこれから何か起こるかもしれんので、皆緊張しておるようです。詳しいことは私の家でお話しましょう」


 村長の家の中に入れてもらい、僕、リン、村長の三人で席に着いた。レオナと呼ばれていた女性は飲み物を入れてくれ、僕は一息ついた。そしてリンが話を切り出した。


「さて村長、話を聞こう」

「はい。一週間程前のことです。森に入った若者が森の異常に気づき、私たちに相談をしてきました」

「森の異常?それはなんじゃ?」


 森の異常とはなんだろうか。そもそも森にさえ入ったことがないので全く気づかなかったが、特に何もなかったような気がする。僕とリンが歩きながら喋っていただけである。


「森が静かすぎたのです。あの森は恵が豊かな場所です。しかしここ最近は森の浅いところでは小動物などの生き物が見えなくなっているのです」

「ふむ。確かに。儂らは森の中を歩いてきたがそこにいたのは儂と仁だけじゃ。他の生物は何も見ていない」


 なるほど。確かに豊かで広い森であれば野生動物の一匹や二匹見てもおかしくはない。つまり何もなさすぎたのである。


「そうですか。我々も嫌な予感がしたので、冒険者に調査をしてもらおうと決めました。そこで村の人間を1人最寄りの町であるルバーナの町へ行かせました。しかしそこにある冒険者ギルドは依頼の申請は受理してくれたのですが、職員からは今しばらく冒険者の派遣は難しくなると言われたのです」

「何?それはおかしい。ルバーナは森のモンスターどもを狩るために作られた場所。冒険者の町とも言われるくらいには彼らの生業で成り立っている町じゃ。質はともかく数だけはいたはずじゃ」


 確かにおかしい。数だけはいたのなら、いったい彼らはどこで何をしているのだろうか。


「村に行かせた者も疑問に思ったようで、それを職員に尋ねてみたそうです。そうするとどうやらこの地方一帯の小さい村々で行方不明事件が起きているそうです。村によっては建物や畑はそのままなのに村人全員が消えているところもあるようです。その調査のために町の冒険者が総動員されており、忙しいようです」

「…ふむ。なにやらきな臭くなっておるな」


 きな臭いどころではない。恐ろしいことが起きている。地方一帯という被害の大きさもそうだが、建物や畑がそのままで、人間だけが消えていることがまさに恐怖そのものである。神隠しにでもあったのだろうか。


「せっかくじゃ。冒険者どもが戻ってくるまでは、儂らもこの村に協力しよう。そのかわり寝床の提供と物々交換に応じてくれ」

「おぉ。それはありがたいことです。こちらのほうこそよろしくお願いいたします」


 村長はそう言って頭を下げた。


「さて仁。儂は必要なものを集めてくる。そなたはここでおとなしくしとれ」

「レオナ。案内してやりなさい」

「はい」


 リンは立ち上がって村長に何かを渡した後、レオナさんと一緒に出て行った。僕はあまり話についていけなかったので何も喋らなかった。そのせいで気づいたら話がまとまっていた。どうやら何かに巻き込まれそうである。僕は内心で溜息をつき、こう思った。帰りたいなぁ…と。



ーーーーーーーーー



https://www.youtube.com/watch?v=XbCsY4-HV8M

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る