第105話 おっさん、迷宮に挑む⑫
「成程な……
第二階層は城塞エリアか」
転移と同時に警戒を怠らなかった俺だが、索敵スキルのセンサーに反応が無い事と心奪われる転移先の風景にひとまず樫名刀から手を離し周囲を見渡す。
そこは広大な城塞都市の威容だった。
複雑に入り組んでいて堅牢な造りはまるで迷路。
中央部奥側には外部に抜ける城門が設けられている。
おそらくあそこがゴールだろうと推測する。
まあそこに辿り着くまでが一苦労だろうが。
俺達がいるのは高台に設けられた尖塔の最上階。
備え付けの螺旋階段を下りればよーい、ドンという訳だ。
「うわ~景色いいね! まるで観光地みたいだ。
でも――油断はしちゃ駄目だね。
ここはもうダンジョンの第二階層だし……
常在戦場の心構えをしっかり保たないと」
「わんわん!」
「――お? ルゥも賛成?」
「あん!」
「ボクの言ってること、ちゃんと分かるんだ。
ホントに賢いな~君は」
「わん♪」
シアのお褒めの言葉に嬉しそうに尻尾を振るルゥ。
北方地域では伝説の魔狼も、こうなると可愛いものだな。
一人と一匹の微笑ましいやり取りに、俺同様警戒に当たっていたリアとフィーがそっと近寄り、甘えるルゥの頭と身体を優しく撫で始める。
「ん。よしよし(なでなで)。
モフモフを撫でるだけで癒される」
「うふふ、同感です。
ずっとこうしていたいところですけど」
「ん。そうもいかない。
シアの指摘は的確なところをついている」
幼い孫を前にした好々婆のようなゆるキャラぶりから一転、三人は真剣な面差しへと変貌する。
周囲の情報を収集する内にここのヤバさに気付いたのだろう。
守られるばかりじゃない三人の成長ぶりに嬉しくなるも、ここは敵地だ。
俺は渋い顔を崩さず事実を淡々と述べていく。
「まあ確かに観光なら絶景だろうがな。
しかし――物騒な設備が方々に見受けられるのが気に食わない」
「ええ、確かに。
各城壁の上にあるもの。
あれは据え置き式の大型弩砲(バリスタ)ですか?」
「そうだ。しかも速射と偏向射撃に特化した厄介なタイプ。
最初、リアの飛翔呪文でショートカット出来ると思ったんだが……無理だな。
アレだけの数にもし一斉に狙われたら幾ら【矢除け】や【防御】魔術を駆使しても無駄だろう。多分レッサークラスならドラゴンでも射落とせる威力になる筈だ。
自分で試してみたいとは思わない。
あと、障害はそれだけじゃないぞ。
対攻城兵器や侵入者除けの罠も複数設置されている。
この複雑で狭い城壁内では逃げ場がない。
突如襲い掛かってくるクロスボウの矢や投石、上から注がれる煮えたぎった油や熱湯にも気を付けろよ。
俺も一度だけ経験したが……地獄以外の何ものでもないからな、城攻めは」
「おっさんにそんな過去が」
「ガリウスの過去は設定盛り過ぎ。
知っても知っても知らない一面が出てくる」
「まあまあ。
わたくし達が知らないガリウス様もいても良いじゃありませんか。
女性だけでなく男性も、ミステリアスな方がいつまでも素敵ですし」
「そんなに大したものじゃないんだがな……
まあ探索が無事に終わったら聞かせてやるよ」
「やった!
ボク、おっさんの昔語り結構好き♪」
「同感。何度聞いても飽きない」
「波瀾万丈過ぎですもの。
お金に困ったら自叙伝を書けば売れると思います。
ただ、内容盛り過ぎ↑って突っ込まれるでしょうけど」
「お、お前達……俺の半生を何だと」
「え? 冒険活劇?」
「ん~~大衆娯楽?」
「勿論、好色英雄譚(ハーレムサーガ)ですわ!」
晴れやかな顔で告げられる三者三様の返答に、俺は頭を抱えながら階段を下る。
まるで人生に疲れたおっさんの様な足取りで進む俺を、新しく仲間になったルゥだけが痛ましくも労わりに満ちた瞳で見ながら慰めてくれのだった。トホホ。
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