第104話 おっさん、迷宮に挑む⑪
「わんわん!」
「あはは、くすぐったいな~もう!
ホントに可愛いね、君は」
階層主である魔狼が守っていた環状石柱群(ストーンヘッジ)へ向かう俺達。
新しく仲間になったフェンリルの幼体は、シアに纏わりついては愛想良くその手を舐めたり尻尾を振ったりと大忙しだ。
どうやら従魔の腕輪が発動した時の持ち主をマスターと認定するらしい。
無論、幼体とはいえ既に大型犬くらいの大きさはある。
しかしその無防備な愛らしさに顔が綻ぶのを止められない。
「――そうだ!
君の名前、どうしよっか?
種族がフェンリルだから……フェンじゃフィーと似てるし、リルじゃリアと似てるし……ん~末尾を取って、ルー?
ううん、ルゥがいい!」
「わん!」
散々悩んだ末に出した名前がそれなのは正直どうなのかと思うが、名付けられた魔狼の方はそれでいいらしい。
上機嫌でシアの胸元に飛び掛かると抱っこをせがんでいる。
危険な迷宮探索もルゥには散歩気分で気負いはなく楽しいもののようだ。
まあレベル1とはいえ最強種の一つだからなぁ。
「じゃあ改めてよろしくね、ルゥ!
おっさんも皆も――それでいいかな?」
「そいつの主はシアらしいからな。
シアが望むなら異存はないぞ」
「同意。名前は重要。
だが――今はもっと大切で切実な事がある」
「――え、なになに?」
「モフモフさせてほしい。
その子の主人とはいえ、さっきからシアばっかりズルい」
「まったくです。
わたくし達にもルゥちゃんのモフモフぶりを堪能させて下さいぃ~」
「あはは、全然構わないよ!
ルゥ――二人にも可愛がってもらいなよ」
「わん!」
「ん。この手触り――極上の絨毯に匹敵。
抱っこして一緒に寝たくなる」
「ええ、堪りませんの。
こうして愛でてるだけで幸せになりますぅ。
って、あら? この子、女の子ですわ。
良かったですわね、ガリウス様。
パーティにまた新しい女の子が加入致しましたよ」
「えっ本当?
じゃあハーレムだね、ハーレム」
「あのな、お前ら」
冗談交じりに揶揄し笑い合う三人と一匹に俺は苦笑する。
階層主を斃したとはいえここは迷宮――
フィールド型ダンジョン内部なんだぞ、まったく。
まあ気を抜きたくなる気持ちも分かるがな。
幸い俺の【索敵】スキルは近くに敵がいないことを把握しているし、敏感に鼻を動かしながら時折遠くを見据えて警戒するのを観察するに、どうやらルゥも敵を捉えてくれるらしい。
人間の数万倍鼻が利くルゥなら俺以上の斥候役になるだろう。
そういった意味では俺の負担も減るし助かるな。
ふと、思い立ちリアに声を掛ける。
「そうだ、リア。
試しにルゥのステータスを【鑑定】してみてくれ。
これから共に戦う以上、今の状態でどんな事が出来るかをしっかりと共通で認識しておきたい」
「了解。
構わない、シア?」
「むしろこっちからお願いしたいくらいだよ。
おいで、ルゥ。
リアに能力を見て貰おう」
「わん!」
お行儀良くその場に座ったルゥの頭にリアが手を乗せ瞑想する。
俺も【鑑定】スキルは所持しているが……
概要だけならともかく、生き物を【鑑定】するにはああいった集中が必要である。
さらにレベルが低いと分かる内容も薄い。
なので俺よりもスキルレベルが高いリアにお任せしたのだ。
俺とは違い【鑑定】スキルがカンストしている彼女なら、ルゥのステータスのみならず特技欄まで看破できるだろう。
「――詳細判明。
この子は凄い……さすが魔狼だけあって、かなりのポテンシャル」
「おっ。
どんな感じなんだ?」
「口頭で構わない?」
「ああ」
「ならば以下になる。
ネーム:ルゥ・ライオット
レベル:1
クラス:魔狼 フェンリル
ステ表:筋力C 体力D 魔力C
敏捷A 器用C 精神D
特技欄:【天候操作】L1 周囲の気象を自在に操る(レベルに準ずる)
【咆哮】 L1 精神以下のステータスを持つ存在に委縮を付与
【噛み付き】L1 噛み付き攻撃の際、筋力値を一段階上げる
【鋭爪】 L1 爪による攻撃の際、レベル分の装甲値を無視
【剛毛】 L1 強靭な体毛により刺突ダメージ以外を軽減する
他にもあるけど、大体こんな感じ」
「……あの、よろしいでしょうか?」
「言うな、フィー」
「すっごいね!
一レベルなのに充分前衛が務まりそうだよ!」
「言ってしまうし」
「確かにルゥの性能は破格。
並の個体に比べても明らかに強い。
おそらく階層主だった事が要因と推定」
「ダンジョン内だからな。
再配置に備えて基本性能が高いとか?」
「おそらく」
「まあ何にせよ、ルゥが参戦してくれるなら心強いな。
シアと一緒に迎撃に出てもらってもいいし、何なら回避盾として敵を引き付けてもらうだけで随分助かる。
盾役不在の根本的な解決にはならないが、しばらくはこれでいこう。
鍛えればルゥはきっと立派な成体になる」
「楽しみだね!」
「ああ、まったくだ。
さて環状石柱群の魔法陣に着いた。
おそらくあの先が次の階層になるが――準備はいいな?」
「勿論!」
「ん。問題なし」
「万全ですわ」
「わん!」
「ならば先へ進もう。
ただ、次の階層は様子見をしたら一旦撤収しようと思う。
フィールド型ダンジョンはそのエリア特性に合わせた対応が必要だしな。
それじゃ――いくぞ」
俺を含む四人と一匹は転移魔法陣に飛び込む。
未だ見ぬ――次の階層を目指して。
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