第11話 おっさん、癒される


「おはよ~~」

「おはよ」

「おはようございます……」

「二人とも酷い顔……ひょっとして寝てない?」

「ん。完徹」

「貴女こそ今にも倒れそうな顔色ですわよ?

 一応、回復呪文を掛けておきますけど……」

「ありがとう~~フィー。

 これで何とか体力は保つよ」

「あまり過信なさらないでくださいね?

 喪った体力は回復しても精神的な疲労までは拭えないのですから」

「そうそう。

 あまり多用してギアを上げ過ぎると精神的にキマる恐れがある。

 術者も対象者も」

「こ、こわ~法術にそんな副作用があったなんて。

 だからおっさんは緊急時以外フィーに法術を多用させなかったんだね」

「これも仕える者を酷使なさらぬ為の神の慈悲ですわ」

「実際は社畜防止を掲げる割に遵守されないコンプライアンス」

「リアの言う事はよく分からないけど……まあいいや。

 じゃあ疲れてるところ悪いけど皆で報告会~~」

「ではわたくしから」

「はい、どうぞ」

「昨日対処した魔素。

 あれの大元を探ったら出てきました」

「何が?」

「悪魔(デーモン)」

「ぶっ!」

「まぢ?」

「ええ……

 何でも異界へのゲートを開く為とか何とか前口上を喋ってましたの」

「うあ~」

「定番」

「それでどうしたの?」

「隙だらけだったので怯える振りをしながら最大級の虐殺壊滅法術【愛栖繰有無】で片付けました。神の寵愛で虚無を生み出すこの法術の前には、例え魔力抵抗値の高いデーモンとて無意味です」

「……何で神様の力を借りてる法術に虐殺とか壊滅とかついてるのかな?」

「名称がアイ(私の)スクリーム(嘆き)にしか聞こえない……」

「そんなこんなで魔素の方は完全にケア致しました。

 まあその後あちらこちらを浄化して回ってこの時間になりましたけど」

「大変だった」

「いえいえ……

 神に仕える者として、この世界に生きる者として当然の責務です。

 そういうリアは何をなさってたのです?」

「ん。不自然にいない旅人、不審。

 探したらいた。山賊のアジトに」

「それって例の悪逆非道で有名な<ヒャッハー団>?」

「ここらに来てたのですね……

 そいつらの対処は……って、聞くまでもありませんか」

「ん。問い詰めたら虜囚を人質にして武装放棄を迫ってきた。

 なので人質を集団転移した後【致死(デス)の雲(クラウド)】で殲滅させた。

 隕石(メテオ)の落下(ストライク)でもいいけど音がウルサイ。ガリウスに迷惑」

「荒っぽいなぁ……もしかして寝不足なのはその事後処理?」

「そう。近くの街に報告して司法へ現場検証を委ねた。

 捕まっていた人たちは山賊の宝の分配と共にギルドに頼んできた」

「ふたりとも滅茶苦茶だな~」

「ならばそういうシアは何をしてた?」

「え? ワイバーン退治」

「――はっ?」

「――な、なんですって?」

「この時期旅人が少ないのは、街道に繁殖期のワイバーンが出るからだよ。

 実際被害者も出てるし……

 ま、万が一おっさんに襲い掛かったら大変でしょ?

 なので事前に飛竜の巣に殴り込み掛けて潰しておいた!」

「……だからって仮にも竜族を退治出来るの? ソロで」

「ガリウス様への愛が……

 一番重い、重過ぎる気がしますわ……」

「漂う地雷臭」

「るっさいな。

 ボクが面倒なら二人だって同じじゃん。

 あっでもさ、ほら見て。

 みんなのお陰でおっさんが安眠できたみたい。

 本当に良かったよぉ~」

「それは、まあ」

「ええ。寝起きなのに爽やかな、あのお顔。

 あれだけですべての苦労が癒されます」

「……死ぬほど疲れたけどね」

「僅か初日でこれ……」

「先が思いやられますわね……」


 ボク達は疲れた顔で……けれど眼だけはやたらとギラギラさせながら虚ろで満足気な笑みを浮かべ合うのだった。

 

 


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