第12話 おっさん、歩み続ける
「ふう……
ようやく見えてきたな」
辺境。
王国の外れにある開拓村。
俺は一週間に及ぶ道中、世話になった奴等に挨拶をしながら――
以前訪れた事のある名前さえまだ無い村を目指していた。
旅は順調そのものだった。
初日以外妖魔との遭遇もなく、大きなトラブルはなし。
村や町で顔馴染みに会いながら旧交を深めるのは贅沢な時間だった。
戦い続けてきた人生で初めての長期休暇かもしれない。
親しい商店主、傭兵、冒険者仲間や宿屋の女将。
あいつらと別れたという俺を、皆同情ではなく心配してくれた。
中には一緒に働かないかと誘ってくれた奴もいたが……俺は旅の出だしからこの村の事が頭から離れなかったので丁寧に断った。
残念そうな顔をしながらも笑顔で背中を押してくれたのが嬉しい。
さあ、もう一息だ。
蓄積された疲労で汗ばむ身体に鞭を打ち歩みを進める。
遠目に視える村に目立った変化はない。
山の裾野にある、牧歌的でどこにでもあるような村だ。
だが――だからこそ今の俺にとって心惹かれる魅力がある。
何故ここに向かっていたかというと、開拓する際に近隣の妖魔を討伐した報酬でこの村の居住権を得ているからである。
資金がない彼らを慮って提案した内容だったが、まさか今になって活きてくるとはびっくりだ。人生何があるか分からないものだとしみじみ実感する。
無論居住権だけではなく住むところも村人の好意で簡素とはいえログハウスを建てて貰ってある。
俺が道中仕入れた物を土産に、雑貨店などを開くのもいいかもしれない。
まあ何にせよ、やる事は無限にあると言ってもよいのが開拓村だ。
農地の開墾。
森林の伐採。
害獣の駆除。
今の俺でも手伝えることは沢山あるだろう。
器用貧乏を自称する身としては歓迎されると信じたい。
前回滞在した時の感触だと村人受けは悪くなかったはずだ。
淡い期待を胸に抱きつつ俺は早足になる脚と心を必死に諫めた。
誰かの役に立ちたいという衝動は、思いの外強い。
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