第10話 おっさん、得をする
「ふあ~よく寝たな。
何だか久々に爆睡した気がするぞ」
明朝。
闇を駆逐する朝日の兆しを感じながら俺は羽織っていた毛布を跳ね除ける。
寝ている間も無論警戒は怠らなかったつもりだ。
だが――何が何でも仲間を守るという精神的な重圧が消えたからだろう。
夢と希望に満ち溢れていた若い頃を思い返すような熟睡ぶりだった。
あの頃に比べ小手先の技術は身に着いたが……
英雄になるという気概は薄れてしまった。
幾度も無慈悲な現実に直面する事により、自分という器の底の浅さを嫌というほど思い知ったからかもしれない
闘争と冒険の世界に身をおき早20年――
振り返れば長いようであっという間の出来事だった。
色々後悔はあるが――
まあ、ウジウジしてても仕方あるまい。
俺の様なおっさんでも、やれることはまだまだあるはずだ。
休憩所に多数設置されている簡易寝台から足を下ろした俺。
まずは強張った身体の筋をゆっくりと伸ばしていく。
身体の調子を確かめる為に緊張がほぐれたら――
次は可動域を徐々に広げてリズムよく背を伸ばし激しく動かす。
これは朝の日課であり戦闘即応する為のルーティンでもある。
「いてて……
ここんところ大分引き攣るようになったな」
筋肉が衰えないよう鍛えてはいるものの、時折体の節々が錆びついたように痛むのはおっさんの証だ。
今更ながら歳を重ねてきたな~と実感する。
残念ながら戦士職の全盛期は30前後だ。
後はどれだけ技術を磨こうが劣化していくのみ。
剣聖と呼ばれる上位のハイクラスなどを除き、俺達の様な一般戦士が戦える期間は非常に短い。
むしろメンテナンスを怠ってもこれだけ動けることに感謝しなくちゃならない。
俺は苦心しながらも異界から来訪した賢者が広めた冒険者ギルドの秘儀――
らじをエクササイズに取り組むのだった。
その後は水場で顔を洗い、髭を剃って身嗜みを整える。
程よく冷たくて清らかな水が火照った身体には気持ちいい。
しかも立ち寄った泉は朝日を受けて神秘的に輝いていた。
これだけでも何だか得した気分になるんだから俺も単純である。
自然からのささやかな贈り物に感謝を告げ――
俺は昨晩の残り物を胃に詰め込むと装備を整え休憩所を後にした。
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