第9話 おっさん、評論される


「ただいま戻りましたわ」

「ん。いま戻った」

「おつかれさま~二人とも。

 転移法術と転移魔術の連発で疲れたでしょう。

 でも……どうだった?」

「ええ、貴女の懸念通りでしたわ」

「ガリウスが宿営予定の水場近辺に魔素汚染を確認。

 泉の精霊が困り果ててたのでそっちはフィーナに対処を任せた」

「何故か人型の可愛いウンディーネさんが裸で哀願してましたので……

 今後ガリウス様が介入出来ないくらい気合いを入れて浄化しました」

「あたしの方はスリープの解呪がてら、例のハイエルフと対話。

 何でも禁忌を犯した懲罰とやらで人間世界で赤子から暮らしてるらしい。

 成人したら妖精郷から迎えが来ると言ってた」

「まんまお伽話のムーンプリンセスじゃん、それ。

 大体エルフの成人って何百年後なの?」

「ツッコミどころ満載で愉快。

 ガリウスの近くにいると本当に退屈しない」

「間近にいる者たちは結構やきもきさせられますけどね……

 ――って、ああ!」

「うん、みなまで言わなくとも分かる」

「おっさんの料理……美味しそう。

 いいな~ボクも食べたいぃ」

「調理スキルが高い訳でもないのにガリウスの料理は絶品。

 少ない食材でどうしてあんなに美味しくなるのか、まるで魔法」

「ふふ~ん。

 分かってないな、リアは」

「というと?」

「おっさんはいつも言ってたよ?

 料理は愛情――

 弛まない研鑽こそが絶妙の隠し味だって」

「なるほど……

 ならばガリウスの料理が美味しいのも理解できる。

 おっさんは言うなれば究極の努力の人。

 凡人が己を磨いて磨いて境界を超えた踏破者だから……

 ――って、どしたフィーナ?」

「何でクネクネ悶えてるの?

 お腹空いたなら用意しておいたシチュー食べる?」

「い、いえ……

 食べるならシチューでなく羞恥を……」

「はっ?」

「えっ?」

「ガリウス様のあの寂しそうな横顔――

 さらにわたくし達を思って浮かび上がったであろう涙!

 その胸中を察するだけでわたくしは……わたくしはもう……」

「お~い、誰かこの欲ボケ聖女捨ててきてー」

「荒い息で欲情するな、変態」

「萌えないゴミなど焚き木にもなりはしないしねー」

「ああ、パーティメンバーの目線が冷たい……

 でもこれはこれで……イイ。

 素敵ですわ……うふふ」


(だ、駄目だこいつ……早く何とかしないと……)


 期せずしてパーティ間に亀裂が入り――

 ボクとリアの心がひとつに団結した瞬間であった。

 




 


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