第8話 おっさん、料理する

 

「大分昏くなってきたな……

 あまり無理をしないで今日はこの辺で野宿にするか」


 俺は街道脇に所々備えられた休息所に足を踏み入れる。

 時期が時期だけに今晩の客は俺だけの様だ。

 東屋のような庇の下に入りまずは竈に薪をくべる。

 薄暗くなり始めた周囲を仄明るい輝きが優しく照らし、俺は思わず一息つく。

 休息所は道行く者にとって心強い拠点だ。

 雨をしのげる簡易寝所が備え付けられており、必ず水場があるのが嬉しい。

 小腹も空いてきたし早めの夕食にするとしよう。

 俺は背嚢を下すと中から使い古した鍋と厚めのベーコンを取り出す。

 このベーコンは先程の老爺から貰ったものだ。

 ゴブリンライダーを撃退した後、心配なので老爺達を村まで送っていった。

 しきりに感謝を述べ今日は泊っていけ、宴会だと騒ぐ老爺だったがそこまで世話になってはかえって寝覚めが悪い。

 失礼にならないよう丁重に断ると、じゃあせめてもの礼にと、村の特産品であるというこのベーコンを頂いたのだ。

 そういえばあの幼女は一連の騒動にも関わらず最後まで熟睡していた。

 まるでスリープの呪文を喰らった様な爆睡っぷりに、こりゃ~大物になるわと老爺と笑い合って別れたのが印象に残ってる。

 ……俺達もああいう風に別れを切り出せれば良かったんだがな。

 しんみりと思い浮かぶネガティブな考えを慌てて打ち消す。

 歳を取るとどうにも涙腺が弱くなって困る。

 俺は香辛料と調理用のナイフを続けて取り出しながら目元を拭う。

 い、今のは香辛料が浸みただけなんだからね!

 誰もないのにシアのような言い訳を取り合えずしておく。

 まあおっさんのツンデレなんぞ流行らないんだがな。

 さて、調理に取り掛かろう!

 主菜となるの勿論このベーコンである。

 程よく脂が乗っており実に美味そうだ。

 竈に鍋を乗せ頃合いを見計らってベーコンをナイフで切り落としていく。

 ジュワ~という脂が爆ぜる音と共に、食欲をそそる香りが立ち昇る。

 んーたまらん。

 俺の数少ない趣味としてグルメ嗜好がある。

 食べるのも作るのも好きなのだ。

 よって今日も手抜きはせん!

 表面をパリパリに焼いた厚切りベーコンに香辛料を投下。

 ジューシーな煙を堪能しながら皿に取り分ける。

 勿論残った脂も無駄にはしない。

 携帯保存用の乾燥野菜を絡め丁寧にソテーしていく。

 最後にちょっとバターを落とせば……はい、完成。

 おっさん特製ベーコンステーキの出来上がりである。

 パンと一緒に貪りついてもいいし香辛料のお陰で酒にもよく合う。


「お~い、飯が出来たぞ~」


 呼び掛けておいてふと気付く。

 そうか、あいつらとは別れたんだったな。

 街外での調理は俺が好きでやっていたから……

 ついいつもの感じで皆を呼んでしまった。

 こりゃ~慣れるのにしばらく時間が掛かるな。

 苦笑しながら俺はベーコンステーキを口に放り込む。

 口内で凝縮した肉汁が溢れ出て美味い。

 炒めた根菜と一緒にパンを咀嚼しながら葡萄酒の入った革袋を傾け流し込む。

 誰が言ったか酒は男の涙なんだという。

 大人の男は大っぴらに泣けない。

 だからこそ酒を飲んで涙を流す。

 若い時は分からなかったが……今は少しだけ分かる気がした。



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