第7話 おっさん、呆れられる
「にゅあああああああああああああああああああ!!」
「な、なんですの……シア?」
「どした、急に大きな声を出して」
「あの荷馬車の娘、おっさんに抱き着いた!
ボクだってずっと我慢してるのに……
ズルい! ズルいよ!」
「そんなことを言われましても……」
「文句なら無自覚タラシのガリウスに言ってほしい」
「だって絶対いい匂いしてる!
何なら一日中だって嗅いでられる!
濃密で濃厚で甘く酸っぱい楽園の園なのに!
ああ、羨ましい……妬ましい。
ボクも抱き着いて堪能したいよ……(ハアハア)」
「……まだガリウス様と別れて半日も経ってないのに……
これから先、本当に大丈夫なのかしら……」
「禁断症状?」
「でもそんな時はこれ――
こっそり拝借したおっさんの靴下(三日もの)!
これを嗅げば――ほらね、手の震えが止まるんだぁ~」
「もう手遅れ……ですわね」
「中毒……重度の」
「? 何でそんな可哀想な眼でボクを見るの、二人とも?
あ、駄目だよ?
パンツはメインだから譲ってあげないからね!?」
「いやいや、そうではなく」
「こんなのが勇者とか……この国の未来は昏い……」
「む~そういうリアだってさっき何か魔術使ってたじゃん」
「そういえば何か唱えてましたわね」
「あれは必要な処置。
スリープの呪文をあの娘に使った」
「なんで?」
「ニット帽で隠れてるけど……特徴的な長い耳。
さらにこの神秘的な魔力は間違いない。
あの娘はエルフ、しかも恐らくは神代に連なるハイエルフ」
「うえ?」
「あら、本当ですの?」
「ん。確証がある。
どういう経緯であの老爺と一緒にいるかは分からない。
けどおっさんと絡んだら絶対面倒事になると推測。
その為に強制的に睡眠状態にして排除した」
「ナイス対応!」
「またトラブルになるところでしたわね」
「仕方ない。
ガリウスは自身をトラブルシューターだと自称するけど――
どう好意的に捉えてもトラブルメイカー体質。
こういった事はこれからも……って、ちょっとヤバい」
「あ、ボクも察知した!」
「この邪悪な気は何ですの!?」
「ま、マズいかも……
あのエルフ幼女を狙って、遥か遠方から妖魔が狙ってきてる。
しかもこいつは……おそらくペイルライダー!」
「――強いの?」
「あたし達三人が手を組んで何とか互角。
パッと見はゴブリンライダーっぽいけど、その実力は蟻と竜くらい違う。
違う地方じゃ死神とも称されるほど。
安っぽく見えるあの大鎌に掛かれば一流冒険者ですら命が危ない」
「法力による結界を無視して侵入できるくらいですしね。
S級……いや、規格外のEXクラスの脅威度」
「い、今からでも遅くないよ!
おっさんを助けに行こう!」
「その必要はない」
「――ええ」
「なんで!?」
「ガリウスは強い。
同じ前衛職のシアが一番分かってるはず」
「英雄の器ですわ」
「けど……!」
「黙って見ているのも絆の強さ。
ほら……始まった。
ああ、おっさん初っ端から無詠唱魔術してるし」
「いつも簡単にしてるから忘れがちですけど……
本来は大賢者クラスの秘儀なんでしたっけ?」
「詠唱により因果を歪め自らが望む理を導くのが魔術。
ガリウスはその原則を無視するのでなく裏道で擦り抜ける。意味不明」
「あ、出たよ必殺の魔現刃(マギウスブレード)!
おっさんに教えてもらってボクの魔法剣(マテリアルソード)の基になった絶技♪」
「一撃、でしたわね……
災厄クラスの妖魔が……」
「基本魔術【火焔】とはいえ、一点に50もの同時発動で重ねた魔力の刃。
局所的とはいえ焦点温度は戦術級魔術に匹敵する……」
「ホント何をやってるんだろう、おっさん。
二重詠唱でも凄いのに同時に50だよ?
大好きだけど相変わらずマジ既知外だね。
ああいうとこ、密かに狂ってるな~チートだよチート」
「本人は謙遜でなく、まだまだだな俺も――
と思ってるでしょうけど」
「何をさせても優秀なのがあの人。
けど唯一へっぽこなのは鑑定スキル。
きっと今のペイルライダーもゴブリンライダーと勘違いしてた。
だからこそあたし達が介入する余地がある。
よってこれからもこんな感じでフォローを続けたいと思う」
「賛成~」
「異議なし、ですわ」
ヴィジョンの魔術に浮かぶおっさんの顔を肴にあーだこーだと話し合い、ボク達は改めて誓い直すのだった。
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