限界社畜のショートショート

第10話 密着！アニマル映像24時

「おなかが空いた顔でケージから出てきたのは新人のしょうた君！慣れないお家に戸惑いながら、器のエサに向かってまっしぐら！元気だねぇ！」

『人で賑わう街を目を光らせながら進んでいく新米巡査。初めてのパトロールに緊張している様子だ』

「次に出てきたのは先住のけんすけ！先輩としての威厳を見せられるかなぁ？」

『大通りを抜け、次は閑静な住宅街。行き交う住民達に丁寧な挨拶をする巡査』

「今日もエサを横取りし合う大喧嘩が始まりました！二匹とも人間で言えば22歳のいい大人。仲良くしないとだめだよ～？」

『と、その時。巡査と撮影スタッフを見た瞬間、こちらに走り迫る女性。ただならぬ雰囲気に緊張が走る』

「あっ！けんすけがしょうた君に強烈ビンタ！こらこら、あまり後輩をいじめると、後からおしおきかな？」

『”隣の家から、男達の口論が聞こえる”と訴えかける女性。口論が激しさを増したため恐怖で自宅を飛び出した矢先、我々を発見したらしい。女性の案内に従い現場へと急行する』

「おしおきの言葉にブルブル震えるけんすけ！でも言ってわからない子には容赦しません！」

『徐々に現場に近づく中、どこからともなく男の叫び声が聞こえる。一刻を争う事態だ』

「あ！こらしょうた君！どこに行くのかな！？家の外は危ないよ！出たらダメ！！」

『まもなくして現場に到着。その瞬間、女性が指さす住宅から一人の男が飛び出してきた』

「もう、これで何回目だろう。しょうたもおしおきだな」

『逃げ出した男を追ってもう一人が出てくる。先輩巡査と共に彼らを確保。暴れる二人を宥める』

「ん？なんだか騒がしいな」

『どうやら金銭トラブルが原因による喧嘩のようだ。相手に暴行を加えた男一人をその場で現行犯逮捕。先輩巡査が男をパトカーに乗せ、新人巡査はもう一人の介抱をしようと駆け寄る。しかし、その時だった』

「あっ！！しょうた！！」

『新人巡査に駆け寄る一匹の犬。足にしがみついて離れない』

「す、すみませんお巡りさん！……こら、しょうた！おしおきだ！」

『そう言って犬の両頬を少しだけつまんで引っ張る飼い主。お騒がせワンちゃんによる、業務執行妨害の瞬間であった』

「本当にすみません、うちの犬がご迷惑をかけて……ケガはありませんでしたか？」

「大丈夫ですよ、舐められただけです。それにしても可愛らしいワンちゃんですね」

「はい！もう一匹飼っているんですが、二匹ともあまりに可愛くて……自宅でもよくテレビで見る動物番組のナレーションみたいな事をして、一日を過ごしているんです」

「そ、それは……良いご趣味ですね。しかし逃げ出したワンちゃんに何かあったら危ない。ワンちゃんも飼い主さんも、共々用心してください。この辺も事件が起きて間もなく物騒ですし」

「そうですね。男子大学生二人が立て続けに拉致されるなんて……」

「何かあればすぐ署に駆け込んでください。ペットの悩み事も大歓迎ですよ」

「お巡りさんも飼ってらっしゃるんですか？」

「えぇ。二匹とも、犬で言えば2歳くらいですかね」