第5話 ドッペルゲンガー

「似ている……」


「あぁ、そっくりだな」


「これが俗に言う、ドッペルゲンガーってやつか?」


「まずいぞ。もしそうなら、二人が邂逅すれば本物が死ぬんじゃなかったか?」


「じゃあ、死ぬのはお前だな」


「何を言う。私は本物だ。お前が死ぬんだ」


「うるさい、俺が本物だ」


「いいや私だ」


「……こんな何番煎じか分からないSF問答をしていたところで解決にはならないぞ」


「それは確かに」


「しかし本当に困った。俺はつい最近、彼女が出来たばかりなのに。もし消えるのが俺なら嫌だな」


「何?彼女だと?ハハハ、なんだ、ならどちらも死ぬ心配はないな」


「どういうことだ?」


「私の性自認は女性で、男性が恋愛対象なんだ」


「そうなのか。個性が違うってことは、俺たちはただ容姿が似てるってだけだな」


「どおりで、出会ってしまったのにいつまでも二人揃って存在している訳だ。騒がせて悪かった。じゃあ、恋を謳歌しろよ」


「お前もな。世間の声など気にするな」


「ありがとう。もう少し、自分を解放出来ればいいんだが……」


「おまたせー」


「あ、彼女が来た」


「あれ?」


「どうしたの?」


「いや、今までここに俺のドッペルゲンガーが……いや、俺に極めて似た女性が……」


「何言ってるの?早くレストランに行きましょう」


「あ、あぁ。……しかし今日は随分張り切ってるな。長い髪もワンピースも素敵だ」


「ふふ、それほどでも」


「あら、二人でお出かけ?」


「そうなんです。こんにちは」


「こんにちはー」


「随分仲が良いのね。双子のご兄妹かしら?」

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