第3話 対義語問答
「『僕』の対義語を、言ってみたまえ」
「私」
「違う違う。言葉としてではなく『僕』と言う人間そのものについてだ」
「なんですか急に」
「いやね、君はどうも素直さに欠ける人間だ。景色を見ても絵画を見ても、直接的に褒めようとせずにどことなく天邪鬼のような返しをするじゃないか」
「まぁ……我ながら捻くれた性分でして」
「故に、『僕』がどれだけ君にアピールをしても微塵も粋な返しをしてこない。由々しき事態だこれは」
「では今、粋な返しをします。鬱陶しいです」
「それは粋ではなく生意気だ。………ともかく、直接的に褒められないのなら、その君の天邪鬼を逆手にとってやろうという提案だ」
「例えばどういう」
「かわいい物に対して『気色悪い』と評してみる……というか。一見蔑んでいるが、対義語を言っているという前提があればそれは褒めている事になるじゃないか」
「なるほど。『美しい』ものを見て『ドブネズミ』と言うみたいな感じですね」
「それは場合によっては対義語じゃない事があるが……まぁそんな感じだ。『僕』の事も、そういう流れで褒めてみてくれ」
「………めんどくさい上に難題ですね」
「『お安い御用な上にサービス問題』とは頼もしいな」
「対義語じゃなくストレートな暴言です」
「…………では、一つずつ。一つずつからいこう」
「何ですか一つずつというのは」
「いきなり『僕』そのものを対義語で評するのは確かに、人間に興味の薄い君には難しい問題だ。……ならば、『僕』を構成するパーツ一つ一つを順に褒めてもらおう」
「まず褒められる前提というのが憎たらしいですが………まぁいいでしょう。暇ですし」
「よし。では………まず、君にとっての僕の立場」
「うーん……先輩………だから、『後輩』。ですか」
「そういう感じだ。……では、髪型」
「『白の長髪』」
「目元」
「『一重』」
「鼻」
「『低い』」
「身長」
「『低い』」
「プライド」
「『低い』」
「どっちにしたって腹立つな」
「……先輩が仕掛けてきたんじゃないですか」
「続けるぞ。……服装」
「えーっと……『ジャージ』」
「足」
「『短い』」
「肩幅」
「『広い』」
「座高」
「『高い』」
「運動神経」
「『絶望的』」
「『裏に引っ込め』」
「……『表に出ろ』ってことですか。いやだから先輩が仕掛けているんですよ。完全に『加害者』ですよこっちは」
「いや………というか、いくら『類義語』を『言うな』という前提だとしてもよくそんな『重々しく』『賛美』を浴びせられるな君は。本当に『人間味に溢れている』よ全く」
「段々内容が『理路整然』としてきたな。『まだまだ続けて』ください。『楽しい』ので」
「おいおいおい。そもそもこんな『醜い』『男子高校生』の『僕』と『朝焼けの授業中』に『独白』しているという『最低』のシチュエーションで何故そんな『情熱的』に『続けてください』とか言えるんだ」
「『私』だって『暇なんです』。『後輩』との『独白』に『蓄える』『空間』は『いくらでもある』んですよ」
「…………………本格的に『理路整然』としてきたな」
「だから言ってる………『聞いてる』でしょう。……ん?『見る』?…………」
「…………『続けよう』か」
「…………『いいえ』」
「では最後に質問する。…………君は、私の事をどう思う?」
「……………………………ドブネズミ」
「………」
「………」
「………………因みにだが、君は………『ポップス』は『嫌い』かね」
「『いいえ』。『生まれてから一度も聞いた事などありません』」
「……………………あ、そう。ふーん」
先輩は何故か急に、『無関心』そうな態度で答えた。
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