『結婚の条件』(4)
婚約した二人は、イリアの高校卒業と同時に魔界の城下町に建つ貸家へと引越した。結婚前の同棲である。豪邸ではないが、庭と駐車場付きの小さな一軒家だ。
イリアは魔王の孫であり王族。現状は生活に困る事はないが、真面目なレイトは『魔界の王子の側近』として働いている。
朝食を終えると、勤務先である魔王の城へと向かうレイトをイリアは玄関先で見送る。
「いってらっしゃい、ダーリン」
「うん。行ってくるね」
「うふふ、スーツ姿、カッコいい」
うっとりと見惚れると、イリアは目を閉じて背伸びをする。唇を突き出してキスの催促だ。
すると、すぐに温かい感触が返ってきた。クールなレイトは今日も無言で優しいキスを返してくれる。
ゆっくりと顔を離すと、至近距離のままでレイトは優しく問いかける。
「じゃあ僕はもう行くけど、イリアは今日どうするの?」
イリアはまだ夢見心地でレイトを見つめ返している。
「アタシは魔獣界に行って婚約を報告する」
「そっか。よろしくね」
イリアの父は魔獣界の王、つまり魔獣王。イリア同様、両親も魔界に住んではいるが、魔獣界は第二の故郷のようなものだ。
レイトを見送った後、イリアは外出着に着替えると中庭に出る。
「よし、行くわ!」
一人で気合いを入れて言うと、イリアの体が発光する。光が全身を包み込み、形を変えて膨張していく。やがて光が収まると、そこには三メートルほどはある大きな黒い犬が佇んでいた。背にはコウモリのような黒い羽根を生やしている。
……これがイリアのもう一つの姿。希少種の魔獣『バードッグ』の姿である。
魔獣の姿になると言葉が話せないイリアは、無言のまま羽根を羽ばたかせて空へと舞い上がった。
悪魔でもあるイリアには人の姿の時でも羽根はあるが、普段は魔法で隠している上に長時間は飛べない。遠距離の場合は、魔獣の姿で飛ぶ方が効率が良い。
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