『結婚の条件』(3)

 レイトはイケメンだが真面目で、クールを通り越して冷めすぎている。そういう性格なのは、イリアが幼い頃からの長い付き合いで分かってはいる。


 魔獣も悪魔も長寿の種族で、実年齢と見た目は一致しない。イリアが生まれた数百年前には、すでにレイトは今と変わらず大人の青年の姿であったから、実は相当な年の差カップルである。


(高校卒業して婚約もしたのに、何なのよコレ!)


 クールなレイトとは逆に、熱い夜を過ごしたいイリアにとっては欲求不満が高まるばかり。

 それもそのはず、今の季節は春。魔獣にとっては繁殖期だ。魔獣の血を持つイリアにとっても、それは少なからず影響していた。


 イリアはベッドの上に座り込んでレイトに背中を向けた。すると、すぐに背中から包まれるようにして温かい感触に包まれる。レイトが後ろから抱きしめてきたのだ。


「イリア、拗ねたの?」

「ふ、ふん……だったら何よ?」

「好きだよ、イリア。愛してる」

「う……」


 女王様気質のイリアも、耳元で囁かれるレイトの愛の言葉には弱い。それを分かっているのか無意識なのか、レイトは巧みにイリアを翻弄するのだ。

 イリアは頬を赤らめながら、ゆっくりとレイトの方を向く。


「なら、おはようのキスして」


 上から目線の女王様が、今では上目遣いで『おねだり』をしている。まさに立場逆転、下克上とでも言うのだろうか。


「うん、いいよ」


 即答したレイトは、イリアの小さな両肩を掴んで引き寄せると、優しく口付ける。


「ん……レイト、好きぃ……」


 真面目で奥手なレイトだが、イリアが高校を卒業してからはキスだけはしてくれるようになった。逆を言えば、キスしかしてくれない。

 それは、イリアにとっては多少の期待外れでもある。

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