第13話 たまにはこんな日も

その①

 二人で過ごすのはどのくらい振りでしょうか。

 新年を迎え数日。比較的患者さんが少ないこの時期に私とエドは休暇を取ることにしました。

 久しぶりの夫婦水入らずの休暇を過ごす場所として選んだのはセント・ジョーズ・ワートの北にある温泉地。むかし、アリサさんと二人旅を楽しんだ温泉郷です。たまにはゆっくり体を休ませた方が良いと言うアリサさんの言葉に甘え、かなり遅めの新婚旅行です。

「ほんとに良かったのか。アリサさんはともかく、サラに店を任せて」

「サラちゃんだって一応、免状はあるんだから大丈夫だよ。それになにかあってもアリサさんが居ればなんとかなるよ」

「おまえがそう言うなら良いけどさ」

「ルークもちゃんとお利口にしてるかな」

「サラにも懐いたようだし、おまえと違って聞き分け良いから大丈夫だろ」

「ねぇ、それってなんか私が我儘みたいじゃない?」

「薬師のことになったら言うこと聞かねぇだろ」

「それは……ね?」

 完全に否定できない私は愛想笑いで誤魔化します。それにしても――

「なんだよ」

「せっかく一緒に入れるお風呂にしたんだよ。少しはこっちを見てよ」

「なっ⁉ 普通は“見るな”だろ!」

「夫婦なんだし良いでしょ」

「コウノトリがどうとか言ってたやつがよく言えるな⁉」

「だから! その話は――っ⁉」

 黒歴史を持ち出されてカチンときた私は思わず立ち上がり、その直後、自分の姿に顔を紅くしました。

「な、なに見てるのよ!」

「おまえ、さっきなんて言ったか覚えてるか」

「う、うるさい!」

「はいはい」

 面倒なやつと言わんばかりに素っ気ない態度を取る旦那様。その様子だとなんとも思ってないようだけど、そんな彼の態度に怒りが増す私はふんと鼻を鳴らし湯船に浸かり直しました。

(なんか納得いかないんだけどっ⁉)

 たしかにまじまじと見られるのはやっぱり恥ずかしいけど、それにしてもなんで冷静でいられるのよ!

「――嫌だろ」

「え?」

「いくら夫婦でもあからさまに見られるのはおまえも嫌だろ」

「そ、それは……」

「そういえばルークが生まれて、こんな風に二人で過ごす時間が作れなかったな」

「なによ急に」

「別に。来て良かったな」

「……だからそう言うの卑怯だって」

 恥ずかしさから彼を直視できないけど、そう思えるのはこの人と結婚して良かったと思えるからなんだよね。なによりも「来て良かった」と口にする旦那様が見せる笑顔は私の心をポカポカにしてくれます。

「ねぇ、エド?」

「ん?」

「お風呂あがったら――“仲良く”しよ?」

 この間は結局、時間を作ると言ったままうやむやになったけど、今日はそうはさせないからね。

「天国のお祖父さんに見せなきゃ。もちろん師匠にも。エドが言ったんだよ?」

「そうだけどさ――なんだよ」

「……二人の時くらい甘えさせてよ」

 温泉の効果には困ったものです。普段なら絶対言わないような言葉を口にしてしまうなんて。あまりの恥ずかしさにエドを直視できません。でも、素直に思いを伝えることが出来るなら、こんな日があっても良いのかもしれません。

 アリサさんの言葉に甘えて決めた遅めの新婚旅行。久しぶりに二人で過ごす甘い時間は日々の疲れを取るには十分すぎる薬になりました。

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