その③
◇ ◇ ◇
翌朝。薬の効果もあり熱は下がり、頭痛も気怠さもきれいさっぱり消えていました。これならもう薬を飲む必要はなさそうだけど薬師が処方された量を飲まないのは本末転倒です。サラちゃんが処方したのは3日分。解熱剤は飲まないとしても残りはちゃんと飲まないとね。
――ソフィーさん。気分はどうですか?
ドアをノックする音とほぼ同時に聞こえたのはサラちゃんの声。そういえば昨日はウチに泊まってくれたんだっけ。
「入って良いよ」
「あ、はい――おはようございます」
「うん。おはよ。昨日はありがとね」
「い、いえ。それで気分はどうですか。まだ熱っぽい感じですか」
「もう大丈夫みたいサラちゃんが作った薬のお陰だよ。ありがと」
「そ、そうですか。良かった」
「今日はちゃんと仕事するね」
「ダメです」
ベッドから降りようとする私をすかさず止めるサラちゃんは眉間に皺を寄せています。
「病み上がりで患者さんを診るなんてダメです。せめてあと1日は安静にしてもらいますよ」
「で、でも熱も無いし……」
「患者さんに同じこと言えますか」
「……い、言えません」
いつになく強気なサラちゃんを前に言い返す言葉がありません。
「ソフィーさんは薬師なんですから患者さんの手本にならないとダメです」
「ごめんなさい……」
「――って、エドさんが言ってました。でも、ほんとに今日はゆっくりしていてください」
今日は休診にしますからと言うサラちゃんは私の額に手を置いて熱を測ります。きっとエドが休診にするって言ったんだろうね。普段風邪をひかない分だけ心配させちゃったかな。
「――確かに熱は引いてますね」
「でしょ? だから――」
「ダメです。また熱が出たらどうするんですか」
「その時は、ね?」
わざとらしくニコッと笑顔を見せるけどサラちゃんは再び眉間に皺を寄せ、ジト目で私を睨みました。サラちゃんってこんな子だったっけ?
「エドさんから『絶対無茶するから見張ってろ』って言われたので今日は言うこと聞いてもらいますよ」
「やっぱりエドか。心配しなくても大丈夫なのに」
「とにかく、今日までは大人しくしてくださいね。診察室にいるのでなにかあったら呼んでくださいね」
ほんとに熱が出たら大変だからと念を押すサラちゃんは部屋を出て行き、一人になった私はなんとなく窓の外を見ました。
(綺麗な青空だねぇ)
あと数日で10月に入る初秋の空はまだ夏の雲が残っています。それでも季節は一歩ずつ進み、その証拠に夏雲が残る空は済み切っていて秋の気配を感じます。
「みんなに甘えて今日はゆっくりしよ」
昨日はずっと寝ていたので眠気はありません。ほんとは本でも読みたい気分だけど、きっとエドから「また熱が出るだろ」って怒られそうだから今日は止めておこうかな。
風邪をひいておいて言うことでもないけど、たまにはこんな風に体を休めるのも必要なんだと思った休日となりました。
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