第6話 新米同士

その①

「なんかヤな予感がする」

 夏のある日。午後になっても誰一人来ないお店で呟く私は自然と窓の外を見ました。

 100人足らずの村ですが丸一日誰も来ない日はほぼありません。理由がなくとも「エドに用がある」や「ルークと遊びに来た」と理由を作って誰かやってきます。それすら無いと言うのはなにか悪いことが起きる前触れのようがしてなりません。

「なにか起きそうな気がする」

「おまえ、それ“フラグ”って言うんだぞ」

「ソフィー殿、あまり気味の悪いことは言うな」

 二人とも私が新米薬師だった頃からの付き合いです。窓の外を見つめながら呟く苦言を呈しますが二人も同じことを思っていたんだと思います。そんな私たちにサラちゃんはオドオドしています。

「あ、あの。調薬の準備した方が良いですか」

「サラ。これ以上フラグ立てるな」

「す、すみません」

「――サラちゃん。診察の準備して」

「え?」

 エドの言葉を取り消し、診察の準備を急ぐように指示する私に戸惑うサラちゃん。一方でエドたちはすぐに動き出してくれます。

「おまえが余計なこと言うからだぞ」

「悪かったわね。アリサさんは縫合セットの準備、サラちゃんは調薬ナイフを煮沸して」

「あの、ソフィーさん。なにが見えたんですか」

「バートさんたちだよ。誰か背負ってる」

 窓の外に見えたのはバートさんを始めとする村の男性たちがこちらへ走ってくる姿でした。彼らは怪我人と思しき人を背負い、そのうち一人は足に布が巻き付けられています。誰が巻いたのか分かりませんが包帯代わりのそれはどす黒く血に染まっており、容態が最悪なのが遠目にも明らかでした。

「――エド。ルークをお願い」

「酷いのか」

「ちょっと後片付けが面倒かな」

「わかった。ちょっと外に出てる」

「ありがと」

 さすが旦那様。全てを言わずともちゃんと私が意図することを汲み取り、部屋の隅でお絵描きをしているルークを外へ連れ出してくれます。ここからが本番。気合を入れないと。

「アリサさん! 包帯とガーゼをありったけ出してください! かなりに人数が来ますよ」

 エドたちが外へ出たのを見計らい、声を荒げる私はすでに臨戦態勢に入ってます。

「サラちゃんは薬棚から傷薬と麻酔薬!」

「は、はいっ」

「アリサさん水の用意!」

「承知した!」

 矢継ぎ早に指示を出す私に対照的な動きを見せる二人。慌てふためくサラちゃんと違い、アリサさんは無駄のない動きで指示通り動いてくれます。

 怪我人を背負っているのは見える範囲で4人。正確な容態は診てみないと分からないけど、もしかしたらセント・ジョーズ・ワートへ送らなきゃいけないかもしれない。

「……来るよ!」

バートさんたちの姿がはっきり見えてきました。やっぱり怪我人を運んできたみたい。彼らには明らかな焦りが見え、背負われている人たちはどうやら意識がないようです。それに4人のうち一人は――

「だからアレは専門外だって!」

目に飛び込んできた患者の姿に思わず叫ぶ私はすぐさまサラちゃんに覚悟を決めるように言いました。

「足が無い怪我人が来るよっ」

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