その②

「サラちゃん。お湯を沸かして調薬ナイフとピンセットを消毒してくれるかな」

「は、はいっ」

「なぁ、嬢ちゃん。一応聞くが大丈夫なんだよな」

「自信がなければハンスさんへ紹介状を書いてますよ」

「それもそうだな」

「それじゃ処置の前に麻酔薬を塗りますね。効果が出るまで少し時間を置きますよ」

「ああ。嬢ちゃんに任せるよ」

「特別に麻酔代はサービスしますね」

 少量と言っても麻酔薬はウチでも値段の張る薬です。本当はお代を貰いたいところだけどバートさんには日ごろからお世話になってます。今回はそのお礼ってことで私のお給金から差し引こうかな。

「それじゃ塗っていきますね。少しひんやりしますよ」

「ああ……冷てぇな」

「冷感効果のある薬草も入っているので。麻酔が効き出すまでちょっと待っていてくださいね」

 効果が出るまで5分ほど。コイン大の瘤とその周りに惜しみなくクリーム状の麻酔薬を塗った私は指に就いた薬を綺麗に拭き取ります。このまま放置していれば自分の指まで麻酔に掛かり、刃物を使う処置などとてもじゃないですが出来ません。

「どのくらいで効くんだ?」

「5分くらいで効き始めると思いますよ。終わったら痛み止めと化膿止めをお出ししますね」

「そりゃ助かる。ありがとな」

 麻酔は長くて1~2時間ほどしか効きません。傷口が塞がるまでは痛みが続くはずだから今回は少し強めのやつを出そうかな。

「サラちゃん。器具の消毒は終わりそう?」

「はい。そろそろ大丈夫そうです」

「ありがと。お湯から上げたらトレイに乗せてそこに置いてくれる?」

「わかりました」

「それから縫合セットを用意して。あと化膿止めとガーゼも。ガーゼは少し多めにお願いね」

「なぁ、嬢ちゃんよ」

「なんですか?」

「サラだったか? あの娘、村に来たばかりの頃の嬢ちゃんに似てるな」

「そうですか?」

「ああ。あれはきっと腕の良い薬師になるぞ」

「なって貰わないと困ります」

 縫合セットの場所が分からないのか薬棚を上から下、下から上と見渡すサラちゃんに苦笑いしながら応える私。あの様子じゃ私が取り出した方が早いみたいだけど、そろそろ麻酔が効き始める頃です。

「さてと、それじゃバートさん。覚悟は良いですか?」

「ああ。ひと思いにやってくれ」

「ひと思いって……痛かったら我慢せずに言ってくださいね」

 麻酔の効き具合は本人しか分かりません。我慢をしないように念を押して私は煮沸消毒を済ませた調薬ナイフを手に取ります。

(……大丈夫だよね)

 自分が作った薬を信じない無い訳ではありません。腕に自信が無い訳でもありません。それでもゴクリと唾をのむ私は手は震えています。これじゃ患部とは違う箇所に刃を入れてしまいそうです。

(大丈夫。私は薬師なんだから)

 大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせ、バートさんの背中に出来た炎症を起こして腫れあがった瘤に刃を当てました。

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