第4話 薬師の基本

その①

 それはサラちゃんがウチにやってきて1カ月ほどが経ったある昼下がりのことでした。

「腰が痛い?」

「ああ。なんか瘤みたいなのが出来たみたいなんだ」

「瘤ですか」

 久しぶりに患者としてやって来たバートさんはさっきからしきりに腰を触っています。よほど痛いのか顔を顰め、その表情からかなり我慢していたんだなと推測出来ました。

「瘤が出来たのはどのくらい前ですか」

「わからねぇんだ。なんか腰が痛いと思ってたら瘤みたいのが出来て、それが少しずつ大きくなってるみたいなんだ」

「なるほど」

 いくつか原因の候補が頭に浮かんだ私は瘤の状態を確認する為、バートさんに診察台でうつ伏せになるよう指示しました。

「ちょっとシャツ捲りますね」

「どうだ。瘤があるだろ?」

「ありますね――サラちゃん」

「はい」

「薬棚から麻酔薬取ってくれる? 塗るタイプの方ね」

「は、はい」

 麻酔薬と聞いて一瞬戸惑うサラちゃんでしたが指示通り、壁際にある薬棚から小さな瓶を取り出してくれます。

「バートさん。痛みの原因は大きなニキビです」

「ニキビ?」

「はい。正確には『粉瘤』というもので腰痛もそれが原因です」

 バートさんの背中にあったのは瘤というよりも赤く腫れたしこりでした。コインほどの大きさに膨れたその中心には黒点があり、腫れあがっているところを見ると炎症を引き起こしているようでした。

「放置しても問題ないのですが、炎症を起こしているようなので少し皮膚を切開して摘出しますね」

「薬じゃ治らないのか」

「痛み止めで誤魔化すしかありません。それに、ニキビを潰す感覚で潰してしまうと余計に悪化することもあるんですよ」

 皮膚を切り開くと言ったせいかバートさんの顔に珍しく動揺が見れます。不安になる気持ちは分かるし、ハッキリ言って薬師の専門外の処置をしようとしています。

「セント・ジョーズ・ワートへ行くタイミングでハンスさんへ処置を依頼する方法もあります。でも医師が処置すれば費用は高額になりますね」

「懐的にも嬢ちゃんに頼んだ方が良いってことか」

「それでも風邪薬とは比べ物になりませんけどね」

「それは仕方ないだろ。わかった。やってくれ」

「わかりました」

 さすがにハンスさんを選ぶと思ったけど私を選んでくれたバートさん。その期待を裏切らないように全力で処置しなくちゃ。

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